ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #12

Pinterestがユーザー増加で再注目、Instagramとのポジションの違いは?【ピンタレスト・ジャパン 定国直樹 聞き手:ニトリ田岡敬】

本社のエンジニアとプロダクト改善に奔走

田岡 定国さんが、Pinterestのカントリーマネージャーに就任した経緯を教えてください。

定国 はい。Pinterestは、創業後しばらくは米国に注力していたのですが、2013年に海外展開の方針を固め、海外事業責任者が日本に視察へ訪れました。その際に、共通の知り合いを通じて「日本のマーケットについて教えてほしい」という依頼が当時googleにいた私に来たんです。

 その責任者とホテルのラウンジで、日本のマーケットの特性などについて2、3時間話し込んで、私もPinterestについて質問しました。そこで、ネット企業の多くが自分たちのサービス内でユーザーを囲い込んでWeb上で完結してしまっている中、Pinterestが「リアルな外の世界に出て行こう、行動しよう」というビジョンを掲げていることを知って感動しました。私もリアルの世界に出ていくことが大好きでしたから。

 その場で、日本のカントリーマネージャーを募集していると聞いたので、私も受けることにしたんです。それが、5年ほど前の話です。



田岡 カントリーマネージャー就任後の5年間を振り返って、いかがですか。

定国 すごくエキサイティングでした。私の役割は、日本のマネジメントです。複数のファンクション(機能)のレバーを持ち、リソースが限られているなかでどれを引くかという選択が重要でした。

 リソースが潤沢にある大企業では、同時に複数のレバーを引くことができますが、私たちは、まだスタートアップ。素早く決断して、行動して、インパクトを生み続けていくことが大事です。その中で、どのレバーを選択するかが常に悩ましかったですね。

田岡 就任して最初に引いたレバーは、何だったのですか。

定国 入社当初はPinterestについて知ってもらうために、私自身がカンファレンスにスピーカーとして登壇したり、様々な企業に訪問したりしていましたが、ほとんど効果がなく失敗でした(笑)。

 その原因は、当時は日本向けのコンテンツが少なく、ユーザーからすると米国のコンテンツばかりで面白くないうえ、企業からしてもユーザー数が少ないためビジネスアカウントをつくる魅力を感じないという状況だったためです。

 そこで、対外的な活動を一旦止めて、まずはプロダクト体験の改善に集中しました。米国本社のエンジニアに掛け合って交渉して、ユーザーがPinterestとエンゲージメントできる環境づくりを始めたのです。そうして、プロダクトへの改善を積み重ねていたのが、昨年までの状況でした。

田岡 多くのグローバル企業は、ローカルオフィスがプロダクト開発に関わることができません。Pinterestは、珍しいですね。

定国 はい。本社のエンジニアも、プラットフォームとして持続性を得るためには、ローカルからの要望を叶える必要があるということを理解していました。マーケティング、パートナーシップ、PRなど、成長するために必要なレバーはたくさんありますが、その根本となるプロダクトが弱ければ、事業は育ちません。私の最も大事な仕事が、本社とのコミュニケーションだと思っています。

田岡 どのように本社に対して、日本の問題を伝えるのですか。

定国 まさに、伝え方に工夫が必要です。本社からすれば、日本は世界展開している中の一カ国でしかありません。そこで、「日本に、このような問題がある」という言い方はせずに、スケールを大きく普遍化して「グローバルの課題」にまで昇華させてから伝えるように意識しています。



田岡 定国さんもエンジニアご出身ということですから、その経験が生きているかもしれませんね。

定国 そうですね、エンジニアの心理を理解できることも大きいと思います。手前みそですが、Pinterestには本当に優秀なエンジニアが集結しています。

田岡 リスペクトの気持ちがあることが、要望を受け入れてもらえるポイントかもしれません。日本からの要望で改善された機能について教えてください。

定国 数え切れないほどありますが、特に効果が高かったのは、日本語での検索結果に、より関連性の高い画像を表示させるアルゴリズムの導入でしょうか。日本語ならではの表現でも、適切に表示されるように改善しました。

 やはりテクノロジー企業の良い点は、全ての施策でABテストが可能なことです。結果が数値として明確に出るため、新しい施策を数日試して、結果が悪ければ止めればいい。仮説検証がスピーディーにできるからこそ、エンジニアも新しいことに次々とトライできるのだと思います。

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