マーケターズ・ロード 横山隆治 #05

デジタルインテリジェンス創業に思う、エージェンシーが生き残っていくための要諦【横山隆治】

マーケティングの新種を発見し、組織化して培養

 構造改革を進めるには、「リーダーシップ」が不可欠です。デジタルの深い知見を持つ人が旗を立てなければ、誰もついていきません。

 例えば、ウォルマートは2006年、ECマーケットプレイス「Jet」を運営するジェット・ドット・コムを約33億ドル(約3000億円)で買収しましたが、これはジェット・ドット・コムという企業を買ったというよりも、「EC界の寵児」「第2のジェフ・ベゾス」とも呼ばれる、同社創業者のマーク・ローリーを買ったと言ったほうが正しい。いまや、ウォルマートのビジネスのデジタル化はすべて彼が担っています。大きな改革には、絶対的なリーダーが必要なのです。

 そして、データを価値化(マネタイズ)するという、新しいスキルを持った人材を“培養”し、組織化する仕組みをつくることも欠かせません。新しいスキルを持つ人材というのは、ある意味で“新種”。新種というものは個体に起こるもので、集団が一斉に新種になることはありません。そのため、突然変異で生まれた新種を大切に培養し、組織化することで、企業の「アドバンテージ」としていくことが重要なのです。

 「ストラクチャー」、「リーダーシップ」、「アドバンテージ」。この3つが、これからのデジタルマーケティングを成功させるために必要な3つの要素と言えます。

 DI創業以降は、コンサルティング事業と並行して、エージェンシーと広告主との新しいパートナーシップのあり方を模索することにも取り組んでいます。2014年に、デジタル時代のマーケティング活動におけるエキスパート集団「ベスト・イン・クラス パートナーズ」を立ち上げたのは、その一環です。
 


 デジタルという新しい領域のスキルはまだまだ属人的なものなので、「どこ(企業)」に依頼するより「だれ(人)」に依頼するかを考えたほうが効果的。そこで、「コミュニケーション設計」「クリエイティブ開発」「データ活用」「CRM」など各種専門人材をネットワークし、案件ごとに最適なチーム編成を組めるよう仕組みを整えました。専門家(エキスパート)同士、自分にないスキルやケイパビリティを補いながら、広告主に最適なソリューションを提供しようという発想です。

 同様の動きは、アメリカでもすでに見られていました。WPPグループがフォードのために「チーム・デトロイト」※1を組成し、そこには各領域のエキスパートが集結していました。WPPの場合は、グループ内の連携ですが、「ベスト・イン・クラス パートナーズ」は、グループの枠組みすら超えて専門家同士が連携することを促す異なる領域の専門家(エキスパート)が違う領域のエキスパートと仕事をすることでふり幅が広がり、業界のためにもなります。
 
※1 チーム・デトロイト
ジェイ・ウォルター・トンプソン、オグルヴィ、マインドシェア、Y&R、ワンダーマンの5社のデトロイト拠点として2007年に発足。2016年にブルー・ハイブ、リテール・ファーストとブランド統合し、GTBに名称変更。

 マーケティングの専門化・細分化が進み、ひとつのエージェンシーがすべてをワンストップで解決できるきる時代ではなくなりました。また広告主がエージェンシーを介さず、専門家本人やソリューションベンダーと直接契約を結ぶケースも増えてきています。

 こうした中で必要になるのが、それぞれに特化した異なるソリューション同士をマージする統合プロデュース力。いま、この機能が求められているのではないかと考えています。

 必要なのは、プロジェクトを一歩離れたところから見て、どの専門家をどのように広告主とインターフェイスさせるかコントロールするプロデュース力(それを私はオーケストレーションと呼びます)。そこで2015年には、「ベスト・イン・クラス パートナーズ」の中核企業として、「統合プロデュース」「チームビルディング」「社内のプロセスづくり」といった機能を担うプロデューサー集団・ベストインクラスプロデューサーズも立ち上げ、順調に事業を拡大しています。

 広告業界には、アカウント・プランナーという職能が定義されていますが、アカウントプランニングとは、多岐にわたる収益モデルを自在に使い分け、ビジネスをつくり出す役割とも言えます。この案件はマージンで稼ぐのかフィーで稼ぐのか、投資した回収するのかインセンティブで回収するのか――さまざまな局面がある中、エージェンシーとしてどう収益化するのかを考え、それに合わせてアメーバ的にチームやプロセスを柔軟に変化させていくことが、エージェンシーが生き残るための要諦だと思っています。
 

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録