ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #14
日の目を見る、Jリーグのアジア戦略「サッカーに投資すれば、日本企業の進出もうまくいく」【Jリーグマーケティング山下修作】
2018/11/19
- タイ,
- 事業開発,
- マーケティング戦略,
- スポーツマーケティング,
- ASEAN,
アジア展開を進めるという決断は、どう下されたのか
田岡 2011年にプロジェクトがスタートしてからは、どのように推進していったのですか。山下 まずは、タイやマレーシアなどアジア各国のリーグに足を運びました。すると、“ペーペー”な私の訪問に、各国リーグの会長やサッカークラブのオーナーが対応してくれるのですが、彼らが財閥の会長だったり、有力政治家だったりしたのです。こちらは、ただ話を聞きたいという目的で訪問したのですが、彼らの方こそ「日本が強くなった理由」に興味をもっていて、Jリーグから人が来るということで会ってくれたことが分かりました。
田岡 彼らは、なぜサッカーを強くしたいと思っているのですか。国の威信のためですか、それとも経済の発展ですか。
山下 両方ですね。東南アジアではサッカー人気が高いので、リーグやチームに投資していると国民の支持が得られ、政治家であれば再選、経営者であればビジネスへの寄与が期待できます。また、かつて日本は弱かったのに、今はワールドカップに出場しているのが「悔しい」という気持ちもあったと思います。東南アジア各国のライバル意識もあり、自分が関わって他国よりも先にワールドカップ出場を成し遂げたいという思いもあったと思います。
田岡 なるほど。
山下 そういった背景もあり、こちらがノウハウを提供したいと伝えると、すぐにかなりの額を出したいという国も現れました。ただ、そのとき直観的に、彼らが欲しいと思っているノウハウを無償で提供すれば、相手国の政治家や財閥のトップと良い関係が構築できて、日本の自治体や企業を紹介しやすくなり、長期的視点では得られる価値やJリーグ・Jクラブの存在価値が高められるのではないかと思いました。
田岡 その考えにたどり着くまでに、何か試算したのですか。
山下 いえ、まったくの直感でした(笑)。具体的に、どのぐらいインバウンド需要やスポンサーが増加するのかは見えていませんでしたね。
田岡 まったくの直感(笑)を基に、Jリーグの内部はどのように説得されたのですか。
山下 最初は私の方向転換に、衝撃を受けていました。何しろ私が「Jリーグがアジア各国にコンサルティングをしてお金を得る」と説得して、スタートしたプロジェクトでしたので。アジアサッカーの熱気やポテンシャルは、言葉で説明するだけでは伝わらないので、まずは上司を現地に連れていき、キーマンに会ってもらいました。
田岡 そこで、現地のかなりの有力者が出てくると。
山下 はい。試合に視察に行けば、場内アナウンスで「日本のJリーグからお客さまが来ています」と流れ、歓声が上がります。普段はなかなか会えない人に会えるし、勢いも感じるし、現地に行くと国の成長が肌感覚で分かります。そして、次はその上の上司、次はまたさらに上の上司といった形で協力者を広げていき、Jリーグとしてアジアにさらにアクセルを踏むという決断に至りました。
田岡 無償でノウハウを提供することに対して、相手国側の反応はどうでしたか。
山下 提供価値があることは、先ほどのフレームワークを書いて説明しました。無償ということについては、最初は怪しまれましたが、アジアの中で日本サッカーの経済規模は上位だけれども、世界的に見れば小さい、自分のいるアジアのマーケットを大きくして日本も成長していきたい、「共に成長しましょう!」と話したところ、共感を得られましたね。
田岡 マーケットが広がればリーダー企業が一番恩恵を受けるという、リーダー企業の鉄板施策ですね。
山下 はい。経営や育成ノウハウを提供することにより感謝の念が得られるようになり、Jリーグのパートナー企業が、その国に進出するときに現地の財閥や政府関係者を紹介できるようになりました。