ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #15

Jリーグ アジア戦略 仕掛け人の仕事術「新しい出会いは毎月100人以上、個人でメルマガも発行」【Jリーグマーケティング 山下修作】

Jリーグが地域にもたらしたもの

山下 Jリーグは1993年に開幕し、今年で25周年を迎えました。最初は10クラブ8都道府県でしたが、現在は54クラブ38都道府県にまで広がっています。この数字からも分かるように、Jリーグは地域で愛され、その土地のなくてはならない財産になることを目指しています。

 地域で愛されるというのは、例えば好きなチームがJ1に昇格したときに、子どもから年配の方までが嬉し泣きをしたり、家族と抱き合って喜んだりという光景が見られること。スポーツには、大人も子どもも関係なく感情の起伏で喜びや悲しみを感じられ、日常生活や家族との会話が楽しくなるといった良さがあります。そういったことを広げていくというのが、Jリーグの目指すべきことだと考えています。

田岡 応援しているチームの選手ががんばっているから、自分もがんばろうと力をもらうこともあるのでしょう。

山下 そうなんです。先日、25周年に際して「#もしJリーグがなかったら」というハッシュタグでSNSにエピソードを投稿してもらうキャンペーンを行いました。すると、「今の旦那とは結婚していなかった」「サッカーがない生活なんて、幸せが見つからない」といったエピソードがたくさん寄せられました。

 Jリーグにはクラブ名に必ず地域名を入れるという決まりがあります。それは、すなわち、応援するクラブを連呼することは自分のアイデンティティがある都市を連呼することにつながるわけです。つまりサポーターにとって、クラブの存在は単なるエンタテインメント以上に、アイデンティティになっているんです。負けたら選手と同じくらい悔しいし、勝ったら選手と同じくらい嬉しい。

田岡 地域の経済効果も見込んでいるのでしょうか。

山下 経済効果もあります。例えば、静岡を本拠地とする清水エスパルスのJ1昇格がかかった試合が徳島で行われたときには、約4000人が静岡から徳島を訪れました。Jリーグは基本的にホームゲームとアウェイゲームを交互に行なうサイクルになっていて、月2回のホームゲーム、月2回のアウェイゲームが開催されます。東京などの大都市圏から地方へという人の流れだけでなく、地方から地方へも人が動くため、地元の経済効果は大きいんです。
 

夢はJリーグで「ノーベル平和賞」を受賞

田岡 山下さんの今後のビジョンについて教えてください。

山下 アジア戦略をさらに強化して、日本の地域を活性化させていきたいですね。まだ全てのスタジアムが満席になるというわけではないので、国内のマーケティングも取り組んでいかなければと思います。

田岡 アジア戦略については、事例を雛型化してスピードを上げて取り組んでいくフェーズですか。

山下 まさしく、そうです。アジア戦略には、アジア各国の選手が関係するケースと、関係しないケースに分かれます。選手が関係するケースは効果が高い一方で、数には限りがあるし、その選手が必ず試合に出場できるかは分かりません。そのため、選手が関係せずにできる企画に挑戦していく必要があると考えています。

 あと、これは大きな夢ではありますが、Jリーグとして、あるいは日本サッカーとして「ノーベル平和賞」を受賞したいと勝手に考えています。

田岡 ノーベル平和賞ですか。何か取り組みをされているのですか。

山下 2011年からソーシャルメディアを通じて、サポーターから着なくなったユニフォームを送ってもらい、社会課題を抱えるエリアの子どもたちに届けています。

 例えば、スリランカでは数年前まで内戦が行われ、その後にスマトラ島沖地震の津波で2000人が亡くなりました。そういったエリアにサポーターが大事にしていたユニフォームを届ける活動をしています。その様子をサポーターにも伝えて、その地域に寄付などの行動をするきっかけになればと考えています。つい先日も、セネガルにユニフォームを届けに行きました。

 また、難民キャンプでは、サッカー教室を開いて、プロサッカー選手を例に「夢を持つことの大切さ」を伝えています。ネパールで大地震があったときには、現地でサッカー教室を行いながら「頭を守る防災教育」を行いました。サッカーを通じて、様々な社会貢献活動ができることが分かったので、今後もさらに世界平和に役立てていければと思っています。
 
スリランカ
セネガル

田岡敬氏 対談を終えて

 山下さんが事業をつくり大きくしていけるのは、行動力×気付き力直感力×分析力整理力×リレーション構築力×ビジョン構築&伝える力のそれぞれの戦闘能力が高いからだと感じました。

 分析力に関してですが、インタビューにお答えいただく際も、整理されたチャートで分かりやすくご説明いただき、感じたことなどを冷静に整理して、そこからアイデアが自然に出てくる方法論を身に付けていらっしゃるように見えます。

 現場に足を運び体感することと、本や勉強会での知識のインプットと、両方に取り組まれているのが伝わります。右脳と左脳を行ったり来たりできる人は、やっぱり強いですね。
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