探訪!大学マーケティングゼミの現在地 #04
「消費者からマーケターへ」掲げ、時代の先を行く研究で躍進する明治大・加藤拓巳ゼミに潜入
学生に求める「これから必要となる価値のあり方」の提示
加藤ゼミの学生は多忙だ。1年生の冬からグループ研究の仮説設計を開始し、2年生では学会発表に向けて準備を進める。大きなテーマとしては先に挙げた2点があるものの、個別の研究テーマを決めるのはあくまで学生自身だ。加藤准教授からの指示は「消費者に喜んでいただける価値を自ら生み出すこと」だけ。学生は企業のビジネス課題や社会問題を踏まえて「これから必要となる価値のあり方」を仮説として立案し、消費者調査から科学的に仮説の妥当性を検証する。これをひたすら繰り返すことで、「戦略立案・クリエイティブ制作・統計分析・プレゼンテーション・リーダーシップなどマーケターに不可欠な総合的な能力が鍛えられる」と加藤准教授は言う。
研究に加えて、研究成果のビジネスへの還元も積極的に行う。明治大学グッズの開発プロジェクトでは、卒業生約1600人への調査から浮上した大学へのロイヤルティ要因「大学ブランド」と「スポーツ」に、大学の本業である「教育・研究」を加えた3本柱を軸として、大学の研究成果を具現化する「明大グッズ Powered by Meiji Research」を企画。第一弾として開発した「BADUIからデザインを学べる付箋」は、道案内であるにもかかわらずユーザーを混乱させる掲示や、劣化しやすい赤字で強調したために肝心の「熊」が見えなくなる「熊出没注意」など、UIの失敗例「BADUI(バッドユーアイ)」を紹介。加藤准教授は「面白くて学びになる付箋で、同僚・友人・家族のコミュニケーションに使っていただければ幸いです」とコメントする。

(図10)「BADUIからデザインを学べる付箋」
高知県庁が主催する異業種交流・人材育成プログラム「土佐MBAゼミナール」では、企画・運営を加藤准教授が担うほか、加藤ゼミの学生が講師を務め、生成AIを用いたクリエイティブ制作とマーケティングの仮説検証に関する講演を行った。付属の明治高校でもマーケティングの講座を開催し、ゼミ生が高校生と一緒に商品企画を行う講座を実施。さらに、企業との商品開発プロジェクトや、マーケティングイベントでの先端技術のプロモーションにも参加するなどして、ビジネス現場での実践力を鍛えている。NECなど多様な業界から第一線のビジネスパーソンを招いた企画ワークショップや講演も多数行なう。
※出典(図10)~(図12):いずれも明治大学商学部公式サイト
「1秒たりとも『これ何の役に立つの?』と思わないほど、マーケターとして生きていくための専門能力を徹底的に鍛える」を掲げる加藤ゼミは、「看板に偽りなし」の過密スケジュールで駆け抜けていく。そうした経験・実績の蓄積が突出した就職実績にもつながっており、ゼミ生の内定先には誰もが知る大手コンサルティング企業、大手商社、日本を代表するメーカー、通信サービス企業などが並ぶ。商学部内でも「就職にめちゃくちゃ強いゼミ」と評判が立っているといい、ゼミの説明資料で「大学生活で遊びたい人には絶対におすすめしません」と牽制する「スパルタ」ぶりにもかかわらず、志望者は定員の約3倍以上という人気ゼミのひとつになっている。
実践的なマーケティングを早くから学びたくて加藤ゼミを選んだという4年生の丸山実花さんは、「自分から色々とアクションを起こさないと成長できないということをゼミで学んだ。就職してもイエスマンにならず、自分がやりたいと思うことをできる人材になりたいです」と語った。
アイデアの源泉は「時間・量・執念」
時代の先を見越したアイデアは、どのように生み出されるのか。ゼミ生のテーマ設定に対しては徹底的な「ダメ出し」をするという加藤准教授だが、さまざまな企業との共同研究で発揮される自身の斬新なアイデアは、どこから湧いてくるのか。尋ねてみると、「考える時間と量と執念ですね」と即答した。
「私は『大喜利』と呼んでいるのですが、常に新しいアイデアを考える思考の癖がついています。『面白いこと』を考えるには、まず量を生み出すことです。そしてさまざまな人からフィードバックを受けて、だんだん質が良くなっていきます。最近の教育は『ダメ』とは言わない風潮がありますが、私がゼミ生の案に対して、プロの視点から容赦なく『ダメ出し』しているのは、そのためです」
「ダメ」の先には、マーケティングを志す熱意にあふれた学生たちに、「社会人となってからの50年を自由に、好きに生きてほしい」という思いがある。そして「面白いこと」を生み出すマーケターの力が、AI時代の企業活動や社会経済を豊かにしていくという確信がある。マーケター、研究者、教育者など、何足ものわらじを履く加藤准教授だが、通底するものは一貫している。

明治大学 商学部 准教授/ 博士(経営学)
加藤 拓巳 氏
慶應義塾大学 理工学部 管理工学科, 筑波大学ビジネス科学研究科修士課程,同博士課程修了。三菱電機株式会社,本田技研工業株式会社(Honda) チーフ・アナリスト,埼玉大学 経済経営系大学院 専任講師を経て2022年より現職。東京大学 客員研究員,hootfolio 社外取締役,日本マーケティング協会アカデミック・アドバイザー, SN Business & Economics (Springer), Humanities & Social Sciences (Nature)編集委員。日本マーケティング学会 ジャーナル奨励賞(2020, 2024)・ベストオーラルペーパー賞(2020, 2021, 2023, 2024, 2025), 日本感性工学会 優秀発表賞 (2023, 2025), 経営情報学会 優秀萌芽研究賞 (2022), 日本デザイン学会 グッドプレゼンテーション賞(2022), 人工知能学会 研究会優秀賞(2019), IIAI Honorable Mention (2021), KES Best Paper (2021), ICIM Best Paper (2024), IEEE ICKII Best Paper (2024)等受賞。
加藤 拓巳 氏
慶應義塾大学 理工学部 管理工学科, 筑波大学ビジネス科学研究科修士課程,同博士課程修了。三菱電機株式会社,本田技研工業株式会社(Honda) チーフ・アナリスト,埼玉大学 経済経営系大学院 専任講師を経て2022年より現職。東京大学 客員研究員,hootfolio 社外取締役,日本マーケティング協会アカデミック・アドバイザー, SN Business & Economics (Springer), Humanities & Social Sciences (Nature)編集委員。日本マーケティング学会 ジャーナル奨励賞(2020, 2024)・ベストオーラルペーパー賞(2020, 2021, 2023, 2024, 2025), 日本感性工学会 優秀発表賞 (2023, 2025), 経営情報学会 優秀萌芽研究賞 (2022), 日本デザイン学会 グッドプレゼンテーション賞(2022), 人工知能学会 研究会優秀賞(2019), IIAI Honorable Mention (2021), KES Best Paper (2021), ICIM Best Paper (2024), IEEE ICKII Best Paper (2024)等受賞。
※編集部注:サムネイルの写真は学会賞の経験や研究の心構えを下級生に指導する4年生。画像を一部加工しています。
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