ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #16

売上2億円事業を100億円規模に拡大させるアプローチ方法【オールアバウト 代表取締役社長 江幡哲也】

前回の記事:
Jリーグ アジア戦略 仕掛け人の仕事術「新しい出会いは毎月100人以上、個人でメルマガも発行」【Jリーグマーケティング 山下修作】
 ニトリホールディングス 上席執行役員 田岡敬氏が第一線で活躍するビジネスパーソンから、その人がキャリアを切り開いてきた背景やイノベーションを生み出してきた思考法を探っていく連載。

 第8回は、オールアバウトの代表取締役社長を務める江幡哲也氏が登場。オールアバウトの創業者である江幡氏は、リクルート時代から多くの新規事業を手掛けてきた。江幡氏が新規事業を次々と生み出してきた思考法や、オールアバウトグループを成長に導いた信念について話を伺った。

オールアバウト は、個人が活躍できる社会への原動力

田岡 まずは、江幡さんがオールアバウトを立ち上げた、きっかけから教えてください。

江幡 オールアバウトは、2000年に米国のAbout.com社とリクルートの資本参加を受けて立ち上げました。実は96年頃から私もAbout.comと同じようなビジネス構想を持っていたんです。いわゆるインターネット時代が到来してテクノロジーが進化しても、最終的に“人”の力に委ねなければいけなくなる領域が生まれるため、その活動基盤をつくることが重要だと考えていたのです。
江幡 哲也 氏
オールアバウト代表取締役社長
1965年神奈川県生まれ。武蔵工業大学(現 東京都市大学)を卒業後、リクルートに入社。「キーマンズネット」など様々な新規事業の立ち上げに参画。2000年6月にリクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。05年9月にはJASDAQ上場。著書に「アスピレーション経営の時代」(講談社)。

 ただし、当時はそのビジネスを立ち上げるにはブロードバンドなど外部環境が整っておらず、構想を温めることにしました。その後、99年にAbout.com社が米国・ナスダックに上場し、その事業内容が私の構想と似ていたことと、初期の投資家が知り合いだったこともあって、すぐに連絡を取り、米国に飛び立っていました。
 
生活総合情報サイトオールアバウト(オールアバウト)。その道の専門家が、日常生活をより豊かに快適にするノウハウから業界の最新動向、読み物コラムまで、多彩なコンテンツを発信する。
田岡 20年前に“人”が介在し、信頼性のある情報やコンテンツの価値について見出していたのは、すごいですね。当時は、今のようなAIもそんなにありませんでしたし。また、御社が運営する総合情報サイト「All About」は各分野の専門家が発信する情報にこだわることで、2年前に医療系サイト「WELQ(ウェルク)」の問題※1が起きても影響を受けませんでしたよね。ちなみに当時は、リクルートに在籍されていたのですよね。同社の新規事業ではなく、外で立ち上げたのは、なぜですか。

※1編集部注:真偽が不明な情報がキュレーションサイトに多数掲載されていた問題


江幡 リクルートは当時、情報誌ビジネスの横展開など短期で黒字化するビジネスの創出が得意であったため、情報サイトのような先行投資をしてユーザー基盤をつくり、後から広告ビジネスで収益を回収するモデルをあまり良しとしない傾向がありました。リクルート内で立ち上げても早い段階で撤退の判断がされると思い、外で立ち上げたほうがいいと判断したのです。私はもちろんリクルートの経営にとっても良いチャレンジになると思いました。

田岡 2000年の創業から18年間、これほど長く社長を続けると考えていましたか。

江幡 それは、考えていなかったですね。実は、社長は別の人にお願いするつもりだったのですが、その人に断られて誰もいないので、自分でやることにしたのです。オールアバウトグループのビジョンには、私が実現したい世界が強く反映されているため、今となっては社長業がもはやライフワークに近い感覚になっているのかもしれません。

田岡 と、おっしゃると?
田岡 敬 氏
ニトリホールディングス 上席執行役員
リクルート、Pokemon USA, Inc. SVP、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、現職。ニトリのデジタル戦略を担当している。

江幡 大きな視点で言うと、日本は国と会社が中心にある社会システムですが、それをもっと個人が自分自身で責任を持って活躍できる社会に変えていきたいと思っているのです。その第一弾として考えたのが、メディアとしてのオールアバウトでした。

 現在、「All About」には900人の“ガイド”と呼ばれる専門家がいます。彼らは、記事を執筆することで得られる報酬だけが目的ではなく、その分野の専門家というセルフブランディングができる点にもメリットを感じています。そのことで独立して生計を立てたり、日本有数のジャーナリストになった人もいます。そういった人材を、さまざまな分野で生み出していきたいのです。

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