ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #16
売上2億円事業を100億円規模に拡大させるアプローチ方法【オールアバウト 代表取締役社長 江幡哲也】
2018/12/17
「サンプル百貨店」を売上100億円規模にした思考法
田岡 現在、オールアバウトグループで最も伸びているサービスは何ですか。江幡 子会社のオールアバウトライフマーケティングが運営するサンプリングサービス「サンプル百貨店」ですね。この事業は、もともとは別の会社が展開していましたが、一度も黒字化したことがなく、事業がうまくいっていないタイミングで私たちが買収しました。会員や顧客をそのまま維持しながら、ビジネスモデルを180度転換した結果、2億円だった売上が今期予想で100億円を超える規模に成長する予定です。
田岡 それは、すごいですね。どのようにビジネスモデルを変えたのですか。
江幡 当初は、企業が費用を負担し、ユーザーに無料で商品をサンプリングするというモデルでした。しかし配送料がかかることから、大量に配れないため、効果を出しづらいという課題を抱えていたのです。
そこで、生活者にサンプルを購入してもらう真逆のビジネスモデルに変換しました。サンプリング商品の価格は、通常価格の半額から最大3分の1。生活者にお得な価格で購入して試してもらう場にしたのです。企業の負担が減ったことで多くの商品を扱えるようになり、同時に費用を負担してでも商品を試したいという質の高い生活者にアプローチできるようになりました。
田岡 たしかに通販ビジネスと同じで、お金を支払った人の方が再購入の可能性が高まりますよね。
江幡 そうなんです。同じ商品を一度しか購入できない仕組みのため、再購入したい場合は店舗に行くしかなく、購入者の約28%が店舗で再購入しているという調査結果もあります。メーカーにとっては無料サンプル配布コストではなく、店頭支援のマーケティングコストと定義付けられるのです。さらに、生活者のレビューを集めたり、ネット上で次の購買を後押ししたりする口コミを生成する仕掛けもつくっています。
田岡 江幡さんは、そのような新しいビジネスモデルを考えるためのフレームワークをお持ちですか。
江幡 まずは、何のためにビジネスを行うのかという目的を明確化します。そして、その目的を頂点に置いて、達成のための取り組みをツリー形式で書き出していき、ひと通り出そろった段階で、今度はクライアントや生活者側の“財布”を詳細に分析します。
例えば、「サンプル百貨店」であれば、依頼元として最も多かった飲料メーカーの場合、目的は新規顧客獲得になります。そして彼らのマーケティングコストを一覧にして書き出します。今まではサンプリング配布の費用としてもらっていたけれど、来店効果の可視化をすることにより、今後は店頭支援コストとして予算を出してもらえる可能性があるのではないかと考えていくのです。
田岡 予算の小さいサンプル配布費から予算の大きな販促支援費に変わったということですね。企業のコストや消費者の消費を分解して、どの領域にどのような費用を払っているのかを分析し、その出費を圧縮させる方法を提供したり、同じ出費でも意味転換をして価値を提供する、ということですね。
江幡 はい。その結果、最も良いモデルが受益者負担でした。サンプリングとはいえ、やはり生活者にメリットがあり、お金を支払う状態にすることで、生活者と商品との間により強固な関係が生まれると考えました。
田岡 オールアバウトは、順調に成長しているようにお見受けしますが、大変な時期はありましたか。
江幡 いっぱい、ありましたよ。特にリーマンショックのときは、大変でした。当時は広告売上の比率が高かったこともあって、売上が一気に4割落ちました。急成長していた時期で投資もしていたため、一度だけ会社の構造改革に取り組まざるを得ませんでした。
田岡 ビジネスのステージが変わるタイミングだったのですね。具体的に、どのような変革をされたのですか。
江幡 会社の経営体制を変えました。事業領域ごとに責任者を立てて、会社を小さな単位にしたんです。そのことで社員が自分ごと化できる領域が増えて、成功も失敗も事業ごとに明確に判断できるようになりました。
田岡 課長がPLの責任を持つ、いわば社長であるという責任を持ってビジネスを推進する、リクルートの「PC(プロフィットセンター)制度」に近いイメージですね。