ヘッドマーケターに聞く 十人十色のキャリア論

「掛け算」でつくる唯一無二のキャリア ── SBCメディカルグループCMO・井上慎也氏が実践してきた、真の強みの育て方

 

未経験業界へ挑戦するときに意識していること


ー 井上さんは、未経験の業界にも積極的に挑戦されてきました。面接では、どのようなことを意識されていたのでしょうか。

 興味を持った会社については、まず徹底的に調べます。業界に関する本を数冊読み、市場構造や競争環境、課題を理解し、知人や関係者にも話を聞きます。その上で「ズレ」を把握し、「自分ならどのような勝ち筋を描けるか」という仮説を持って面接に臨みます。

 自分の経歴を説明することも大切です。ただ、それ以上に意識しているのは、企業が抱える課題を理解し、「自分ならどう解決できるか」を一緒に議論することです。

 「御社にはこんな課題があるのではないでしょうか」
「もし私が入社したら、こんなアプローチができると思います」

 そうした対話ができると、企業側も一緒に働く姿を具体的にイメージできます。私は、面接とは評価される場というより、お互いに一緒に働く姿を確かめ合う場だと考えています。

 もちろん、職務経歴書も企業ごとに見直しています。企業が求める経験に合わせて構成を調整し、私の場合はキャリアが長いため、「自分の強み」をまとめた資料も用意しています。

まずは全体像を理解していただき、その上で興味を持っていただいた内容を詳しく説明する。そのほうが理解が深まり、より建設的な対話ができます。
 

ー 外部からマネージャーとして入社するケースも増えています。一方で、「パラシュート人事」(編集部注:中途採用した人材や親会社からの出向者を、社内の現場経験や昇進プロセスを経ることなく、いきなり役員や幹部などの重要ポストに登用すること)と言われるように、外部から管理職が入ることに抵抗感がある組織も少なくありません。新しい組織でマネジメントを担う際、どのようなことを意識されていますか。

 「パラシュート人事」という表現は面白いですね(笑)。

 私が最も意識しているのは、「自分が一番知らない」という前提に立つことです。同じ業界でも、会社が変われば文化も仕事の進め方も違います。異業界であればなおさらです。

 マーケティングの経験はあっても、その会社や業界については、現場のメンバーのほうがはるかによく知っています。だから私は、役職が上だから偉いとは考えていません。そもそもマネージャーとは上下関係ではなく、役割の違いです。積極的に学ぶ姿勢を持ち続けることが何より重要です。知ったかぶりをしても、すぐに見抜かれてしまいますから。

 もうひとつ意識しているのは、「前の会社ではこうだった」と安易に言わないことです。前職の成功体験をそのまま持ち込んでも、新しい会社で機能するとは限りません。外部で培った知見と、社内に蓄積された経験を組み合わせながら、一緒により良い仕組みをつくっていく。その姿勢が大切だと思っています。現在も、メンバーと議論しながら、少しずつ組織やマーケティング戦略の見直しを進めています。

 マネージャーとして転職する人ほど、「教える立場」ではなく「学ぶ立場」であることを忘れないほうがいいと思います。
 

ロールモデルの一人は足立光氏 キャリアプランは「決めすぎない」


ー これから先、どのようなキャリアプランを描いていらっしゃいますか。

 決めている部分と、あえて決めていない部分があります。私が明確にしているのは、「何を大切にして働きたいか」という価値観です。

 今の自分にとって優先順位が高いのは「学び・成長」です。その次に「貢献」、そして「自分でコントロールできること」です。ただ、この価値観は年齢やライフステージによって変わります。だからこそ、定期的に見直すようにしています。

 40代に入ってからは、給与よりも「どんな経験ができるか」を重視するようになりました。その時々の価値観に従って判断してきた結果なので、その選択は間違っていなかったと思っています。

 もちろん、数年後も同じとは限りません。社会も働き方も変わりますし、自分自身の価値観も変化していくでしょう。だから、「○年後にはこうなる」とゴールを固定しすぎず、軸を持ちながら柔軟に方向を修正していくことを大切にしています。

 私はよく「アジャイル」という言葉を使います。無計画という意味ではありません。分析から仮説を持ち、小さく試しながら、その時々で最適な方向へ進んでいく。キャリアも価値観という軸を持ちながら判断をしていくという意味で同じだと考えています。
 

ー 井上さんには、「この人のようになりたい」と思うロールモデルはいらっしゃいますか。

 私は、ロールモデルは一人である必要はないと考えています。誰か一人のキャリアをそのまま再現することはできません。その人が成功した背景には、時代や環境、本人の強みなど、さまざまな要素があるからです。

 だから私は、「この人になりたい」と考えるのではなく、「この人のこの考え方を取り入れたい」と考えます。意思決定が参考になる人もいれば、リーダーシップに学ぶ人もいる。逆に、逆に、「このやり方は自分には合わない」と気づくこともあります。そうやって、一人ひとりから自分に必要なエッセンスを取り入れ、自分なりの軸を少しずつ明確にしながら、キャリアをつくっていけばいいと思っています。

 その意味で、大きな影響を受けている一人が、ファミリーマート CMOの足立光さんです。P&G時代に直接の接点はありませんでしたが、退職後にご縁をいただき、書籍やマーケティングサロン「足立光の無双塾」、プライベートでの個別の対話を通じて多くのことを学びました。

 特に印象的なのは、ご自身の経験を言語化し、再現可能な形で整理されていることです。新著の『即戦力! 転職、転勤、出向、異動するときに読む本』は、まさにそれがまとまった一冊で、共感できる部分がたくさんあります。

 もちろん、「足立さんになろう」と思っているわけではありません。著書『「劇薬」の仕事術』を読んだときも、「書いてあることを全部実行できたらスーパーマンだな」と思いました(笑)。

 だからこそ、すべてを真似するのではなく、「これは自分にも取り入れられる」と思ったものをひとつずつ実践しています。ロールモデルとは、答えをもらう相手ではなく、自分の選択肢を増やしてくれる存在だと考えています。
 

常に転職が最適解とは限らない


ー これからキャリアを築いていくマーケターへメッセージをお願いします。

 まずお伝えしたいのは、転職は目的ではなく、あくまで手段だということです。

 ここまで、転職について多くお話ししましたが、もし今いる会社で新しい仕事に挑戦できたり、成長できる環境があるのであれば、そこで経験を積むことが一番良い選択だと思います。

 大切なのは、自分から手を挙げることです。新しい仕事に挑戦しなければ、経験の幅は広がりません。マーケターとして専門性を高めたいのであれば、まずは今いる環境で成果を上げ、その上で新しいチャレンジをさせてもらう機会をつくる努力をしてみる。その上で、どうしても実現できないことがあるなら、転職という選択肢を考えればいいと思います。

 もうひとつ伝えたいのは、「焦らなくていい」ということです。20-30代の若い方からキャリア相談を受けると、「早く自分の強みを見つけなければ」と焦っている方が少なくありません。

 でも、私自身、自分の強みやキャリアの方向性が明確になったのは35歳前後でした。20代から30代前半は、とにかく目の前の仕事に全力で取り組みました。新しい仕事には積極的に手を挙げ、本を読み、人に会い、休日も勉強を続ける。その積み重ねの中で、自分の強みや価値観が少しずつ見えてきたのです。

 まだ十分な経験を積んでいないうちから、「もっと良い会社があるはずだ」と転職を繰り返してしまう人もいます。もちろん転職が悪いわけではありません。ただ、「何のために転職するのか」が曖昧なまま環境だけを変えても、本質的な成長にはつながりにくいと思います。
 
 繰り返しになりますが、自分の価値観を明確にすることが重要です。

成長を優先したいのか。
マネジメントに挑戦したいのか。
収入を重視するのか。
働き方を大切にしたいのか。

 すべてを同時に手に入れることは難しいからこそ、その時々で自分なりの優先順位を持つことが大切です。それが明確になれば、転職先を選ぶ基準も自然と定まってきます。会社名や年収だけで判断するのではなく、「この会社で何を得たいのか」という視点で選ぶことが、長いキャリアでは大きな差になります。転職先にも、必ず大変なことがあります。だからこそ、「自分は何を得るために、この会社を選んだのか」を忘れないことが大切です。

 その上で……SBCメディカルグループではマーケターの採用を強化しています(笑)。戦略や組織の再編と拡大をまさに進めているところですので、関心がある方はぜひご連絡ください!

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