マーケティングアジェンダ

番外編「愛を叫べ、意味を創れ」登壇者が語りきれなかった物語【聞き手:アジャイルメディア・ネットワーク徳力氏】

「消臭力」のようなテレビCMは、どうすれば再現できるのか

富永:鹿毛さんがすごいのは、ミゲルくんでマインド&ハートオープニングができるという確信が持てたことです。だって、あのストーリー展開が、どんな心理作用を及ぼすかという説明は難しいはずです。

鹿毛:それは、できないですね。

富永:でも、それでは再現性がない。それをなんとか説明したいんですよ。

鹿毛:あのテレビCMをつくる前は、とりあえずTwitterを一通り見て、言葉にはなっていなくても、東日本大震災を受けて、みんなが日常に戻りたいと思っていることを感じていました。それなら、日用品の代表である「消臭力」に決めたという経緯があります。



富永:でも、どうしてあのクリエイティブなんですか。

鹿毛:それは僕にもわからない(笑)。

富永:でも、それでは誰も再現できないです(笑)。

徳力:鹿毛さんも、再現性をつくろうとされていますよね。それこそ、大学院大学で講師をされて、そこにエステーの宣伝チームを通わせて、自分の背中を見せています。

鹿毛:そうですね。インサイトのクラスを担当しています。3時間の授業を6回やるんだけど、自分たちで消費者にインタビューしてインサイトを発見して、そこからプロポーザルや広告を制作しています。

伊東:それで、スタッフが育っている?

鹿毛:はい。この人たちが、このまま引き継いでくれたら、エステーは大丈夫だと思っています。
 

デジタルツールは料理人にとっての包丁

徳力:もうひとつ、キーノートを聞いていて、そもそもデジタル時代になり、マーケティング戦略に変化が起きてるのだろうか、という点を疑問に感じました。皆さんは、デジタルによる変化をどう整理されていますか。

伊東:ツールのサプライヤーも参加している場所なので、こういう表現は不適格かもしれないんだけど、僕はデジタルで何ができるようになったのかと聞かれると、「いろんな包丁が売っているようになった」と答えています。

 例えば、刺身をつくるときに、出刃包丁しかなければ上手にさばけません。しかし、今は何百種類の包丁が売っている時代、刺身だけでなく実現可能なことが増えている状態です。ただし、包丁をいっぱい揃えているだけで、料理人であることを鍛えていない人も増えているように感じます。

鹿毛:その通りですよね。例えが、面白い(笑)。

伊東:料理人の仕事は、包丁を使うことではなくて、おいしい料理をつくることです。

徳力:包丁屋は、うちの包丁を使えばおいしい料理ができますよ、と言うけれど、そんなに簡単ではないということですか。

伊東:そう。

徳力:でも、まさに日本のマーケティングイベントで、クライアントとサプライヤーの意識のズレが生まれるのは、そこに理由があると思います。



伊東:それは、サプライヤーがマーケティングを理解していないという単純な話ではありません。僕は包丁屋ではなく、料理人の方が悪いと思っています。お前は客に料理を出す修行をちゃんとしたのかという(笑)。

徳力:デジタルによって包丁が増えた結果、包丁があれば料理ができると思っている人も増えたというわけですね。そして、この料理人はいろんな包丁を少しずつだけ試して、料理が美味しくないと文句を言っている感じでしょうか。

そういう意味では、デジタルによってマーケティングの本質はあまり変わってないのでしょうか。

伊東:いえ、包丁が変わると、料理も変わります。

音部:そう、新しいデータが入手できると、新しい世界が見えてきます。

徳力:なるほど。今まではデジタルの包丁がなかったため、綺麗にさばけない魚があったけれど、新しい包丁が生まれたことで、それがさばけるようになったと考えれば良いわけですね。

これからは、新しい包丁が生まているのだから、料理人もそれを使いこなさないといけないし、そのためには新しい料理人としての修行も必要になる、ということですね。キーノートを終えて、お疲れのところ、ありがとうございました。

 

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