マーケティングアジェンダ

「オムニチャネルの真実」デジタルシフトウェーブ(元・セブン&アイ CIO)鈴木康弘・日本マクドナルド足立光 対談【前編】

企画推進のために、リアル店舗で実績を出す

足立 さて、いよいよ本題、オムニチャネルの話題です。まずは会場にいらっしゃる、日本を代表するマーケターの皆さんに伺ってみたいと思います。オムニチャネルが何か、理解している人いますか。(会場を見渡して)いないっていうね…(笑)。

 セブン&アイは2013年にオムニチャネル化を宣言し、鈴木さんが中心となって推進してきました。セブン&アイのオムニチャネル戦略は、どのようなことを目指していたのでしょうか。

鈴木 先ほどお話しした通り、セブン&アイに入社した2006年当時、私はEC事業(イー・ショッピング・ブックス)を担当していました。Amazonに真っ向勝負を挑んでいたわけですが、規模からして到底敵うはずもない。そこで、ネット通販とリアル店舗を融合させようと考えたのです。ネットにはネットの、リアルにはリアルの良さがありますから、お客さまの都合に合わせて自由に購買チャネルを選べる環境を構築しようと。2008年頃には、「ネットを制したAmazonは、次にリアルな店舗を手に入れるだろう」と確信していましたから、オムニチャネル化は一刻も早く成し遂げなければならないミッションと捉えていました。



足立 では10年前から、セブン-イレブンの競合はAmazonだと思っていたということですね。

鈴木 いや、思っていたのは、たぶん僕だけですね(笑)。セブン&アイに飛び込んだのは、ネット側から働きかけるより、リアル側に身を置いて動かしていくほうがスピーディに物事を進められると考えたからです。

 ところが、皆さんご想像の通り、非常に難しい状況に直面しました。長年にわたって小売業界全体を支配してきた「いい商品を店頭に並べれば売れる」という考え方を払拭するのは容易ではありませんでしたし、「デジタルのことはわからない」という人が予想以上に多く、ネットと融合することの意義は一朝一夕には理解されませんでした。そのため、セブン&アイに入社してから「オムニチャネル」という言葉を掲げるまでに、実に7年もの月日を要したのです。

 まずはリアルの世界で実績をあげなければ、周りを説得するのは難しいだろうと思い、実現させた企画に「ビストロ弁当」がありました。フジテレビの人気番組『SMAP×SMAP』内のコーナー「BISTRO SMAP」とのコラボ企画です。セブン-イレブン社内の猛反対を振り切って、フジテレビ 日枝さんとジャニーズ事務所 ジャニーさんに飛び込みで提案に行きました。もう意地でしたね。

足立 しかし、そもそも…日枝さん(フジ・メディア・ホールディングス元会長 日枝久氏)とジャニーさん(ジャニーズ事務所社長 ジャニー喜多川氏)に飛び込み営業できる人、あんまりいませんよ。

鈴木 そうですかね?でも、何とかなったんですよ。

足立 いや、鈴木さんだからですよ、普通は会えません(笑)。

鈴木 結果的に良い商品ができて、企画は4年間続き、弁当5種類で60憶円を売り上げました。テレビコンテンツと連動した企画で、ものが動く。チャネルをまたいだ施策で商品が売れるのだということを社内に理解してもらうには、非常に効果的だったと思います。

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