マーケティングアジェンダ
「オムニチャネルの真実」デジタルシフトウェーブ(元・セブン&アイ CIO)鈴木康弘・日本マクドナルド足立光 対談【前編】
2018/06/12
オムニチャネルの真髄は「店舗ごとに売り方を変えること」
鈴木 そうして、2013年にオムニチャネル化を宣言し、2年後の2015年11月に「オムニ7」をスタートしました。セブン&アイグループのコンビニ、スーパー、百貨店で取り扱う商品を、会社の垣根を越えてオンライン販売するようになったのです。Apple社でいうところの「App Store」のようなサービスにしていきたいという構想の下、裏側ではグループ各社で分断されていた顧客データベースと商品データベースを統合しました。足立 ひとつのIDで、ユーザーがさまざまなチャネルからサービスにアクセスできる環境を整えようとした。
鈴木 はい。セブン-イレブンがiPhone、イトーヨーカドーがiPad、そごう・西武がMacBookで、どこからでもApp Storeを利用できる、というイメージです。グループに限定せず、さまざまなメーカーや、競合の小売企業も参画するオープンなプラットフォームをつくれたら、お客さまに便利で新しい買い物体験を提供できるのではと考えていました。
足立 「成功」しましたか?
鈴木 (苦笑)。報道でご存知と思いますが、トップ交代がありまして、2016年にいろいろあったんですよ(笑)。やはり私がオムニチャネル推進を続けられていた理由として、当時のトップが創業社長だったことが大きい。
過去の成功体験にとらわれず、大胆な挑戦ができたのです。しかし、短期的な利益を追わなければいけなくなると、先行投資を抑え、不採算店の閉鎖などコストを削減する施策が優先される。正直この数年は、オムニチャネル化の取り組みは止まってしまっていると思います。
足立 「あらゆるチャネルをつなげて、顧客データを一元管理し、そのデータを活用したマーケティング施策を実行する」――オムニチャネル化によって実現できることは、このように捉えることもできると思います。
僕は「nanaco(ナナコ)」(編集部注:セブン&アイ・ホールディングスが展開する非接触型決済方式の電子マネー)のユーザーなのですが、セブン&アイから何らアプローチを受けたことがありません。十分すぎるほどのデータ量が担保されていて、それを活用しようという意思や投資があったにも関わらず、CRMの観点では、セブン&アイのオムニチャネル戦略は「成功」していないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
鈴木 いえ、私は顧客ごとに最適化されたプッシュ通知をスマートフォンに配信することがCRMでの成功だとは思わないんですよ。それに、オムニチャネル戦略においては、「お客さまに相対する販売スタッフの行動が変わる」ことが最も重要と考えていました。オムニチャネル化によって、小売業でこれまで当たり前とされてきた全店舗共通の画一的なオペレーションを、地域や店舗によって変えられないかという構想を持っていたのです。
例えば、ランニングが趣味のオーナーがいたら、その店舗ではそごう・西武で取り扱っているランニングシューズ・ウェアを売ればいい。また、海外ブランド好きの奥様がいらっしゃるオーナーの店舗では、そごう・西武で「ジャン=ポール・ゴルチエ」のアイテムが発売された際、そのアイテムを9点も売り上げたそうです。たった9着、されど9着。同じことが全国2万店舗(編集部注:2017年度に2万店を突破)で起こったらと考えると、ものすごい数になりますよね。このように、店舗ごと/地域ごとに異なる売り方をできるようになることが、オムニチャネルの真髄なのではないかと考えています。
足立 実は日本マクドナルドも、CRMをほとんどやっていません。dポイントと楽天ポイントを導入しているので、売上の25%ほどのお客さまについては、誰がどの店舗で何を購入したか把握できているのですが、そのデータをもとに何かアクションを起こすということは、現状行っていません。鈴木さんが「メッセージの出し分けがCRMではない」とおっしゃいましたが、その考え方はマクドナルドにも共通していると思います。
後編「Amazon、セブン-イレブン 巨大流通にメーカーが勝つ戦略」は、6月13日公開です。
- 他の連載記事:
- マーケティングアジェンダ の記事一覧