リテールアジェンダ2019 レポート #02

「セブンがやらないことをやる」ファミリーマート 澤田貴司社長が明かす躍進の一手

目指すのは地域に「異常密着」するコンビニ


足立 皆さんお気づきと思いますが、「ファミリーマートがどうやってセブン-イレブンに勝つのか?」という話の中で出てきたのは、9割方がインナー向けの施策で、お客さま向けの施策の話は実はあまり出てきていません。素朴な疑問なのですが、ファミリーマートは、本当にセブン-イレブンに勝つつもりがあるのでしょうか?

澤田 うーん……何をもって「勝ち」とするか。セブン-イレブンを意識していないと言ったら嘘になりますが、あまり過剰に意識しても仕方がないと思っています。私が今ここで話しているこの瞬間も、店頭の現場では20万人もの加盟店スタッフが頑張ってくれています。

コンビニ運営企業にとって、これほど重要なものはないと思います。ファミリーマートを強くしていくために重視すべき事項としては、インナーとの信頼関係がぶっちぎりナンバー1と言って間違いありません。加盟店と本部との信頼関係が異常に強い会社をつくりたいなと考えています。

足立 「地域に異常密着」という表現が特徴的です。

澤田 この写真は(編集部注:登壇中にスライドで紹介)、淡路島にある店舗です。淡路島の人口は13万人。大学がないので、高校を卒業すると多くの人が島外へ出て行ってしまう、人口減少が著しい地域の一つです。島内のファミリーマートは24店舗(編集部注:ローソンは23店舗、セブン-イレブンは8店舗)あります。

これまで、スタッフは神戸に住み、橋を渡って店舗に通っていたのですが、それなりの距離があるので、在店時間がかなり短いという実態がありました。そこで、各種手当を完備させた上で、スタッフに淡路島内に住んでもらうことにしたのです。

すると当然ながら、在店時間が顕著に増えました。加盟店スタッフと地域とのつながりが密になり、一緒に草むしりや釣り、トライアスロン、お祭りをやるようになりました。このように「加盟店が地域に溶け込む」よう徹底的に取り組んだ結果、地域の人口全体は減っているのに、店舗あたりの客数は増加しているんです。

ファミリーマートに限らず、全コンビニチェーンにおいて長らく客数のダウントレンドが続いていますが、淡路島の店舗は客数がプラスになっている。地域に異常密着することで、客数は増えるのです。



足立 これからの時代にコンビニが生き残るための方法は、地域密着ということですね。

澤田 それしかないと思います。ファミリーマートの社員と加盟店が、その地域を良くしていく。極端に言えば、全住民の顔と名前を覚えるくらいのコミットメントができたら、これほど強いことはないと思います。

これを実現するために、外向き(お客さま向け)の施策と同じぐらい、内向き(インナー向け)の施策を重視しています。いくら外向きに花火を打ち上げても、結局、最強の顧客接点たる店舗をつくるのは加盟店のオーナー・スタッフ。彼らが「よし、澤田さん、一緒にやろう」と言ってくれなければ、コンビニのビジネスはできないんですよね。

足立 加盟店の満足度・愛着の向上で、他チェーンに勝っていくと。

澤田 どのチェーンも重視しているとは思いますが、ファミリーマートはそこをダントツで強くしたい。そして、トップダウンではなく「現場で考えて現場で工夫する」風土への転換を進めていきたいと考えています。従来のコンビニのように画一的なオペレーションではなく、各加盟店が、それぞれ密着している地域に合ったサービスを最適な方法で提供していく。そのために、大胆な権限移譲も行っていきたいですね。

日本の小売業を見ていておかしいと思うのは、大量出店・大量採用・即席栽培・大量異動。数を追った企業は、どこも上手くいっていないんです。私は、数は追いません。数は、店舗が繁栄した結果でしかないと考えるからです。

足立 大量出店・大量採用は、小売業が効率化を求めて選択したことですよね。

澤田 ビジネスを拡大する上で、それが一番簡単な方法だったんですよね。日本の流通業は非常に大きなマーケットであり、かつ、同じパターンを反復すれば上手くいった時代が長く続きすぎたのです。

しかし、もはやそんな時代はとっくに終わっています。個店ごとに、最適なやり方を見つけるべきなのです。ですから、例えば24時間営業は、やる店舗もあればやらない店舗もある、ということでいいと思っています。

足立 画一的なオペレーションではなく、各店でバラバラにやっていこうというのは、コンビニチェーンとしては新しい考え方ですね。

外から見ていると、ファミリーマートは総菜が美味しくなるなど、ここ数年で大きく前進していると感じます。セブン-イレブンがなんとなく足踏みしている今の状況は、ファミリーマートがセブン-イレブンを追い抜く、またとないタイミングであるように思えるのですが、どうでしょうか?

澤田 いやあ、とてもとても…セブン-イレブンは、本当にすごい会社ですからね。ただ、我々が、前述したような加盟店との信頼関係づくりを続けていけば、長い時間をかけて、結果的に良いコンビニチェーンをつくり上げることはできると思います。

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