リテールアジェンダ2019 レポート #02
「セブンがやらないことをやる」ファミリーマート 澤田貴司社長が明かす躍進の一手
「ファミペイ」の本当の狙いとは?
足立 キャッシュレス決済戦争が勢いを増す中、ファミリーマートのデジタル戦略の軸として2019年7月にローンチされた決済機能つきスマートフォンアプリ「ファミペイ」の狙いについてもお伺いしたいです。
澤田 ビジネスのオープン化を進める一環で取り組んでいます。お客さまを自社だけで囲い込むことはせず、ファミリーマートが保有するプラットフォームを多様なパートナーとともに利用し、進化させていこうという戦略です。
アプリに搭載されたポイント機能が、Tポイント、dポイント、楽天ポイントと3つの共通ポイントに対応しているのも、そのオープン戦略を象徴しています。
同時に、当社独自のIDを発行し、きちんとお客さまのデータを取得・分析して、商品・サービスに還元していきたいという思いもあります。2019年12月現在、ダウンロード数は約400万件。日々、膨大かつ多様なデータが集約されてくるのを目の当たりにしています。このデータを活用して実現したいのは、マーケティングよりも金融サービスですね。
今後は、銀行口座との連携もスタートし、さまざまな金融サービスの入り口の役割を担うプラットフォームとして成長させていきます。
足立 ちなみに、メディアでは「ファミマがTポイントをやめる」と騒がれた時期もありましたが、Tポイントはやめないのですか?
澤田 やめませんよ(笑)。Tポイントは、これからもポイントプログラムとして採用し続けます。
ファミリーマートが目指すのは「コンビニ版ユニクロ」!?
足立 ファミリーマートは、総菜の美味しさをはじめ、あらゆる要素が競合他社に匹敵するレベルになってきているのに、来店するお客さまの意識は従来とあまり変わっていないのが惜しい。そこにテコ入れして、お客さまの意識をガラリと変えるのは、今がチャンスな気がするんですよね。
澤田 2020年度は、対お客さまへのアプローチも、より積極的に取り組んでいく予定です。2018年11月までは、サークルKサンクス→ファミリーマートのブランド統合で手一杯だったというのが正直なところ。約3300店舗を閉め、5000店舗あまりをブランド転換させるという大仕事がひと段落し、工場や物流、組織の改革も行って、2019年は1年をかけてそれらを定着させました。これからのファミリーマートの基盤がようやく整いましたので、2020年は、思い切りアクセルを踏んでいきたいと思います。
同時に、地域に異常密着した、淡路島のような取り組みを全国各地に広げていきたいと考えています。社員やスタッフがその地域に住んでいて、加盟店がその地域のことを異常なまでに知っている。私は常々、「地域の人たちと地域に貢献する時代」と話しているくらいなんです。
足立 時代を遡れば、商店とはそもそもそういうものでしたよね。店舗の地域密着を推し進めていくと、お客さまを獲得しつなぎとめる役割は店舗が担うことになる。そうした中、本社の役割とはどのようなものになるのでしょうか?
澤田 本社は各分野のプロ集団になることを目指します。例えばメーカー以上にものづくりを理解し、マーケティング会社以上にマーケティングを理解し、デザインやテクノロジーの専門家を豊富に抱え、新しい仕組みや商品・サービスを次々と生み出せる組織になっていくことが求められると思います。
これを、小売業という概念の中で唯一実践しているのがユニクロです。私は、あれ以上のことをコンビニでやりたいと思っています。とは言え、自前主義、つまりPB(プライベートブランド)に特化していくつもりはなく、さまざまなお取引先様と組んで良いものをつくって売っていきたいと考えています。
2019年11月にも、キリンビールの布施さん(キリンビール 代表取締役社長 布施孝之氏)と組んで、ファミリーマート限定販売のビール「キリン・ザ・ホップ 香りの余韻」を発売しました。キリンとの初の共同開発商品です。商品を説明する動画も制作して各加盟店にも協力を仰いだ結果、売れています。
足立 そうした流通限定商品は、他チェーンも販売していますよね。それ自体は、あまり大きな差別化にならない気もしますが……。
澤田 そうですか?商品の特徴や作り手の思いが売り場を通じて伝われば、差別化に十分なると思いますよ。こうした魅力ある商品の開発が、もっともっとできると思います。素材メーカーの帝人さんが展開するスーパー大麦「バーリーマックス」(編集部注:不溶性・水溶性の天然食物繊維をバランスよく摂取でき、大腸の奥まで届く「レジスタントスターチ」が一般大麦の4倍含まれているスーパーフード)を使ったおむすびを開発したところ、こちらも大変好評です。メーカーが持つこうした知られざる優れた素材を一緒になって商品化・プロモートする取り組みに、最近ようやく着手したところ。2020年度には、より積極的に行っていく予定です。