リテールアジェンダ2019 レポート #03

配荷 vs 差益。リテールとメーカーの利害を超えた「理想的な連携」に必要なこと

リテールとメーカーが一緒にできることは何か?


植野 リテールとメーカーが商品を一緒につくる。売り場を一緒につくる。売り場をより盛り上げる企画を考える。そして中村さんもおっしゃったとおり、データを共有することでこれらがもっと上手くいく。大前提としてマーケティングの発想を持った上で、こうした協働をしていけるのが理想ですよね。

鈴木 こちらの図は、リテールとメーカーが一緒になって、いかにお客さまに能動的に働きかけるかいうことをまとめていただいていますね。その一歩手前として、お客さまの変化をリテールがメーカーに伝えることも重要なのではないかと思うのですが。

やはり今、お客さまが大きく変わってきていると思うんです。例えば昨今、コンビニが抱える24時間営業問題や食品ロスの問題。これに対する現在のお客さまの価値観は、かつてのそれとは大きく異なります。

「24時間365日いつでも営業していないと」「棚はいつもきちんと埋まっていないと」と考えるお客さまは、ずいぶん減ってきている。こういう変化を、お客さまに最も近いリテールがしっかりと押さえて、メーカーに共有することが大事だと思うんです。



植野 おっしゃるとおりですね。ファミリーマートは、経営トップの澤田貴司がマーケティングに非常に強い思い入れ・信念を持っているということもあり、マーケティング専門部署を置いていますし、社内でマーケティングという言葉がごく日常的に使われています。

店舗という、お客さまとの強力な接点を持っている強みを生かし、毎週のように市場調査を行うなど、アンテナも尖らせています。とは言え、そこで得た情報を組織の壁を越えてメーカーまで伝えきれているかというと、まだ甘いところがあると思います。

富永 この中でも、やはり特に「売り場をともにつくる」観点は、リテールとメーカーの連携において重要だと思います。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンは、「コンビニ」というカテゴリでくくることができ、私たちは「コンビニとはこういうもの」というおおよその共通イメージを持っています。

しかし、目隠しをされた状態でセブンやファミマに放り込まれて、パッと目隠しを取られたら、ロゴが見えなくともそこがセブンやファミマだとわかるはず。それくらい、セブンはセブンらしさが、ファミマはファミマらしさがあるんです。同じ「コンビニ」という概念に包括される3つのチェーンが、そこまで各々個性的であるというのは、すごいことですよね。

つまり、「らしさ」を確立しているわけです。セブンらしく/ファミマらしくありたい、こんなお店をつくりたい、こんな顧客体験を提供したい、こんなマーチャンダイジングをやりたい……こうしたさまざまな意図や思いが結晶化されている。どんなカテゴリの、どんなポジションの、どんなイメージのお店にするかを考えた上で、売り場デザイン、陳列、マーチャンダイジング、販促へと落とし込んでいくことが大事だと思います。



植野 おっしゃるとおり、リテールとメーカーが連携して売り場づくりをすることは重要だと感じています。富永さんはリップサービスで「セブンらしさ」「ファミマらしさ」と言ってくださいましたが、市場調査をすると、チェーン間の差は残念ながらそれほど明確に認識されていないのが現状です。いろいろなメーカーの特色ある商品をどう並べて、「ならでは」をつくるか。非常に難しい問題です。

中村 先ほど、メーカーとリテールの関係について本音を言いましたが、かたやメーカーとして反省しなければいけないこともあります。メーカーって、結局「売り込み」気質なんですよね。

基本的に自分たちのブランドが売れればいいと考えていて、主語がブランド。しかしバイヤーさんにしてみれば、「プレミアムモルツ」が売れようが、「スーパードライ」が売れようが、「一番搾り」が売れようが、「黒ラベル」が売れようがどうでもよくて、ビールというカテゴリが活性化することのほうが重要なわけです。

メーカーは、カテゴリで語ることができているか?リテールに対して、カテゴリを活性化するための提案をできているか?――そこを問われたら、メーカーはぐうの音も出ないと思います。

データに基づいてカテゴリをしっかり語れて、カテゴリを活性化するために何ができるのかを提案できているメーカーの営業担当者は、ごく一握り。リテールとメーカーは、マーケティング思考とデータに基づき、本音で語れるパートナーの関係性を築いていくことが不可欠だと思います。

※ 後編「リテールはマーケティングの勉強をせず、メーカーは小売の現場を知らない」に続く
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