リテールアジェンダ2019 レポート #04
「リテールはマーケの勉強をせず、メーカーは現場を知らない」 プロフェッショナル4人が語り合う両者の連携
リテールとメーカーの真の連携のためには、人材交流が必要
中村 昨今、多くのメーカーがホールディングス化し、意思決定スピードを速めるために、マーケティング、宣伝、営業・販売と機能別に事業会社を分立させるケースが増えています。その結果、組織の壁が情報の流れを分断し、部分最適に陥っているところが多いのではないかと思います。
営業は目先の売上をつくることに躍起になり、ブランドチームは自分のブランドのことだけを考え、宣伝チームは「CM好感度ランキング」の結果に一喜一憂して、実際のところ商品は売れていないなんてことも……。
そうした組織に横串を刺し、お客さまを主語に全体最適を考えている人は誰なのか?――いないんですよね。現状、そこに真に課題感を持っているのは、おそらく経営トップだけなんです。この会場にいらっしゃる、ある程度の規模のメーカーは、同様の課題を持っているのではないでしょうか。
鈴木 セブン&アイを退職してから、3年くらい経っているので最近のことはわかりませんが……セブン&アイもホールディングス体制で、業務ごとに事業会社が分かれており、部分最適になってしまっていました。会社や組織を分断すると、個々に物事を考えて、だんだんとぶつかり合うようになる。しかし、デジタル時代の今は、組織横断的な情報共有が容易になっていますから、本来はその問題を突破しやすいはずです。
私は、リテール/メーカー/パートナーのいずれも経験した立場として、一番の問題は互いに対する理解が不足していることにあるのではないかと思っています。富永さんがおっしゃったとおり、リテールはマーケティングの勉強をせず、メーカーは消費の現場を知らない。であるならば、メーカーは小売りの現場を、リテールは生産現場を、一度経験してみるのがいいんじゃないでしょうか。
組織間の情報共有は、技術的には容易になったものの、そこに人がついていけていないんです。人が理解し合い、協働の土壌ができれば、新しいものが見えてくるような気がします。リテールもメーカーも、お客さまが笑顔になるのが最終的な目標です。お互いを理解し合いながら目標へ向かって協働していくために、人材交流は有効だと思います。
植野 日本ではリテールとメーカーの対立が問題視されていますが、米ウォルマートでは、「カテゴリキャプテン制」(編集部注:リテールが、特定カテゴリの分析とプランニングを特定メーカーに委任する仕組み。カテゴリキャプテンは、リテールと強いパートナーシップを構築し、重要な意思決定に影響を与える)を採用してリテールとメーカーが一緒になってカテゴリのプランを立てたり、「ジョイントビジネスプラン」(編集部注:JBP。リテールがカテゴリキャプテンのメーカーと売り場起点で課題解決に一緒に取り組む手法)で一緒になって売上・利益を高めていくといったことを、かなり前から行っている印象です。
富永 当時、ウォルマート傘下だった西友では、取引のあった食品・日用品メーカー約20社の中から重要なサプライヤーを決めて、半年に一度、マーケティングや営業、売り場づくりを含めた包括的な話ができる場を設けていました。
毎回、リテール側からは商品部部長を筆頭に、バイヤー、MDプランナー、マーケターが出席し、メーカー側からは営業責任者やマーケター、企業規模によっては社長が出席することもありましたね。前回のミーティングで議論されたことの進捗を確認するレビューも行い、非常に建設的な議論ができていました。
「カテゴリキャプテン制」や「ジョイントビジネスプラン」よりも、もう少し実践的なアイデアとしては、店頭を観察することが大事だと思います。リテールの商品部やマーケター、そしてメーカーの担当者が店頭に足を運ぶことは、“百利あって一害なし”。
店頭を見れば、例えば、メーカーや商品部の要望として多く寄せられる「多カ所展開」がいかに店舗のコンディションを損なうかがよくわかります。多カ所展開をすると、複数の売り場に目配り・メンテナンスすることが必要になり、在庫管理や品出しが煩雑になります。そんな多カ所展開が1カ所ならまだしも、店内に10カ所、100カ所という規模になってきたら、もう対応しきれません。店舗運用の原則からすると、多カ所展開は避けたほうがいいのは明確ですが、現場を知らないがゆえに要望だけが重なっていく現状があるのです。現場を知ることで、リテールとメーカーは実践的な協力体制を築けるようになると思います。
植野 中村さん、メーカーの方は、どれくらい売り場のことを想像したり、戦略的に考えたりするものなんでしょうか。
中村 富永さんのご指摘のとおり、メーカーのその視点はどんどん弱くなってきていると思います。リテールとメーカーの商談は、メーカーの本部担当者とリテールさんの商品部との間で決まったことが運営部経由で店舗に着地するという流れになっていますが、メーカー側が思っていたような着地にならないと、我慢できずに店頭に人を送り込み、品出しや陳列に手を出してしまうことがあります。
チェーンオペレーションが効いていれば、やらなくていいところまでメーカー本位で動かしてしまい、ムリ・ムダ・ムラが生まれ、リテールのオペレーションも乱すという悪循環が起こることもあります。メーカーには、小売りの現場を深く理解した上で商談するスキルが求められていると思います。