マーケティングアジェンダ

精子セルフチェックサービス「Seem」に学ぶ、イノベーションの起こし方【後編】

コモディティ化の時代、ブランドの最大の価値はストーリーだ

馬渕 お二人は社会課題に真正面からタックルし、会社を口説いて、サービスを立ち上げ、カンヌをはじめ外部からの高い評価も得るという偉業を成し遂げられました。今後の開発や、コミュニケーション展開について聞かせてください。

入澤 「Seem」は、いまは1回使ったら終わりという方が圧倒的に多いです。しかし、前半でも説明しましたが、精子の状態は環境や生活習慣で変化するものなんです。メタボ、ストレス、寝不足……生活や体調など、精子の状態を左右する要因はいろいろあります。ですから妊活期間中、男性が自分の状態を知った上で、改善する行動が一般的になったらいいなと考えています。

これまでの妊活は、基礎体温を測ったりタイミングを図ったりと女性が頑張らなければいけない一方で、男性はちょっと早く帰宅したり、飲み会を控えたりするくらいだった。それが、タイミングに合わせて男性もコンディションを整えるような行動が一般化すれば、世界は大きく変わるはずです。「Seem」をフックに、そういう意識改革を促していけたらと思っています。

萩原 日本は、少子高齢化の課題先進国。その課題に立ち向かうためのひとつの解決策として「Seem」に関わることができてよかったと感じています。今後も、社会課題の解決に軸足を置きながらリクルートのサービスに関わり、ストーリーをつくりながら広く伝えていけたらと思っています。よく言われることですが、いまは商品の機能やデザインが、いとも簡単に複製できてしまう時代です。そうした中、ブランドが最も大切にすべきものはストーリーだと思うのです。それがきちんと伝わったとき、事業を通じた社会課題の解決が実現できるのではないでしょうか。

馬渕 AIが普及する中で、人間の仕事として特に重要になってくるのが「アート」の領域だと言われています。ビジネスにおいて人間の直感を活かすことに、注目が高まっているのです。海外企業の経営幹部が相次いでアートスクールに通い始めていると聞きます。社会全体が大きく変わりゆく時代、これまでの延長線上にはない新しいものを生み出すためには、人間の直感が大事になってきます。直感を生かしたイノベーションをどれだけ起こすことができるかが、企業の時価総額や、ブランドに対する評価にもつながってくると言えるのではないでしょうか。

最後にお二人の抱負を伺って、セッションを終えたいと思います。

萩原 「社会課題を解決する」と大上段に構えなくても、日常の業務の中で「これを、ちょっとこんなふうに変えたら、社会課題を解決することにつながっていくんじゃないか」という視点で物事を捉えることが大事なのではないかと考えています。青臭いかもしれませんが、日々のそうした気づきを通じて、少しずつでも社会を良くしていきたいです。

入澤 まずは、男性の妊活を一般化するのが目下の目標です。皆さん、「6組に1組」という数字を聞いて、意外に多いなと思われたのではないでしょうか。悩んでいるけれど誰にも言えない、まさにいま取り組んでいる、という方がたくさんいらっしゃるんです。会場の皆さんには、ぜひ「Seem」の話をシェアしていただけたらと思います。男性が動くことで救われる女性が増えるし、新しい命の誕生につながる。ぜひ一度使ってみて、その使用感を含めて、周りの方に話してください。

馬渕 これからの10年、世の中はますます大きく変わっていきます。その過程で増大していく社会課題に、皆さんもぜひタックルしていただきたいと思います。
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