富永朋信の小売マーケティング勉強会 特別企画 #01

なぜ小売業にマーケティングが必要なのか 【富永朋信 特別インタビュー】

  AIの研究・開発を行うPreferred Networksのマーケティング責任者で、イトーヨーカ堂の顧問を務める富永朋信さんによる「富永朋信の小売マーケティング勉強会」が4月22日から始まる。

 現在の日本では、マーケティングに関する様々な書籍やセミナーが開催されているが、そのほとんどがメーカーのプロダクトを起点にしたもので、買い場を中心とした「顧客体験(小売マーケティング)」が語られる機会は、ほとんどない。

 そこで勉強会のスタートに合わせて、大手小売やメーカーで長年、マーケティングに携わってきた富永さんが考える小売マーケティングとは何か、そして学ぶべきポイントはどこかについて話を聞いた。
 
「富永朋信の小売マーケティング勉強会」募集開始
 

「小売マーケティング」が注目を集める背景


――現在の日本では「小売マーケティングが確立されていない」と考えられています。その状況や課題について、どのように考えていますか?
富永朋信
イトーヨーカ堂顧問/Preferred Networks執行役員 最高マーケティング責任者

日本コカ・コーラ、西友などでマーケティング関連職務を歴任。ドミノ・ピザ、西友など4社でマーケティング部門責任者を拝命。社外では株式会社セルム顧問、厚生労働省年金局、内閣府政府広報室の広報アドバイザー、駒沢大学非常勤講師などを務める。日経クロストレンドなど、マーケティング関連メディア・カンファレンスなどのアドバイザリー、ボードメンバーなど多数。著書に『デジタル時代の商品企画』(翔泳社)、新刊『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP)が好評発売中。
 
 小売の販促部やマーケティング部の人に「マーケティングとは何か?」と聞くと、「チラシで集客すること」「調査すること」「POPをつくってお店で発信すること」といった答えが返ってきます。

 でも、それらはマーケティングの枠組みからすると、非常に部分的なことなんです。私は「本来のマーケティング」と「このマーケティングだと思われていること」のギャップが大きいことに問題があると思っています。

 なぜこんな事態が起きるのかと言うと、一番の理由は「流通の仕事の大半がオペレーションにある点」にあります。オペレーションには「店舗運営」と「仕入れ・値付け・棚割りなどのマーチャンダイジング」という2つの大きな流れがあります。その2つは非常にダイナミックなので、どうしてもマーケティングが小さな領域に見えてしまうんです。

 加えて、オペレーションは属人的でルーティンになりやすいうえ、独自に発展してきた歴史を持つためマーケティングが介在する余地があまりないように見えるんです。そのため、これまで小売の中にはマーケティング部門があまり存在しませんでした。

 そうした状況から多くの小売は、マーチャンダイジングや仕入れ担当者がメーカーと相談して棚割を決め、経験と勘で店内のレイアウトを変えてしまう。それは、もったいないですよね。本来、お店はお客さまが集う「この店らしさ」を伝えられる最大の場所なのに、そういう風に設計されていないんです。

 だから私は、お客さまに働き掛けていくうえで核となる棚割や値付け、店舗レイアウトはマーケティング的な視点や考え方をベースに実行した方がいいと思っています。

――最近、小売業の中にもマーケティングの重要性を理解し、専門部門をつくったり、人材を採用したりする企業が現れています。マーケティングの必要性が認識されてきたと思うのですが、それはなぜでしょうか。

 必要になっているかは明言できないのですが、確実にマーケティングの組織や人材がいた方がいいと思います。

 その背景としてよく挙げられるのは、Eコマースの台頭ですよね。でも、もう少し根源的な話として「店舗の独自性や存在価値をどのように考え、つくるのか、という問いに答えるためのツールとしてマーケティングが着目されてきています。

 それから仕入れやオペレーションのフローをお客さん目線で書き直す必要性にも気づき始めています。お店ではメーカーが売りたい商品がメーカー都合で送り込まれることが頻繁に起きているのですが、それは本当にお客さまが望んでいることなのか、その結果お店も本当にハッピーになれているのかと言うと、そうではないケースが多いんです。

 本来は「そのお店に最適な棚割りはどのようなものか」「そのお店ならではのお客さまの要望とは何か」を見つけて、品揃えやオペレーションを改善していく。このような途切れない流れが、お店のダイナミックな仕事なわけです。それこそが変わらず、小売でマーケティングが存在する意義でしょう。

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