ダイレクトアジェンダ2020 #01

ダイレクトマーケティングのトップランナーが語る「広告離れ」と「商品原価アップ」という傾向

 2017年の初開催から、今年で4回目を迎えた「ダイレクトアジェンダ」。会場には直販・通販事業に携わるトップマーケターを中心に、過去最多となる240人の参加者が集まった。

オープニングキーノートのテーマは、恒例企画となる「ダイレクトマーケティングの現在と未来。今後3年間で起こるイノベーションは何か?」。2017年に語られた“3年後”にあたる今回は、業界の最前線を走る5社のトップランナーが登壇し、ダイレクトマーケティングおよびデジタルマーケティング領域の過去3年間の変化を概観しながら、これからの3年間を見据えて、今から取り組むべきことを考察した。
 

D2Cとサブスクの経営者を加えて未来を探る


西井 3年前の2017年も同じテーマでキーノートセッションを行い、ここにいらっしゃる長谷川さん、藤原さんと一緒に「今後3年間で起こること」についてお話ししました。その時に語られた“3年後”が、まさに2020年なわけです。

今年は、高級バッグのサブスクリプションモデルを仕掛ける「Laxus(ラクサス)」の児玉さん、D2Cを代表してカスタムオーダースーツの「FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)」の森さんを新たにメンバーに加えて、同じテーマを深堀りしていきたいと思います。  
  
西井敏恭
オイシックス・ラ・大地 執行役員 CMT(Chief Marketing Technologist)/ GROOVE X CMO/シンクロ 代表取締役社長
化粧品会社にてデジタルマーケティングの責任者を務めた後、独立。オイシックス・ラ・大地で3つの部署を管轄し、シンクロでは大手企業やスタートアップのマーケティング支援を行う。著書に『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』(翔泳社)など。

まずは恒例の「ECの分類」から。縦軸に「リアル店舗中心⇔通販中心」、横軸に「小売りEC(仕入れ商品中心)⇔メーカーEC(自社商品中心)」をとった四象限で、いろいろなブランドをプロットしてみました。



コメ兵さんは、リアルとWebの在庫をすべて連動させていますよね。店舗中心は創業から70年間変わらないものの、「Webで商品を見て、店舗で購入する」など、お客さまの動きは変わってきているのではないでしょうか。

一方でFABRIC TOKYOは、まず店舗で採寸してからECで購入するので、置き場所が難しいのですが、縦軸は真ん中で横軸はメーカーEC寄りとしました。

この位置は、LOVOT(編集部注:西井氏がCMOを務めるGROOVE Xが開発・販売する家族型ロボット)と似ているんです。Webで情報を集め、店舗で実際に見たり触れたりして、いいなと思ったらECで購入いただくので。いまNTTドコモの長谷川さんからdマーケットは分類しにくいと指摘を受けたのですが、ラクサスとdマーケットは商品点数も多く、一旦モール型としていますが、どちらかと言えば、もうこの分類が古くなってきて、ECは今後OMO、サブスク、D2Cという形に変わっていくフレームになっていくのかもしれませんね。
 

ディスプレイ広告離れ? 広告は不要?


西井 ECのタイプによって、施策は大きく異なるはず。「広告」「サイトとアプリ」「オフライン」という大きく3つに分けて、皆さんの取り組み状況を伺っていきましょう。

事前にヒアリングさせていただき、各社の注力度合いを「○/△/×」で示してもらいました。広告はさらに「検索」「ディスプレイ」「ソーシャル」と細かく分けたのですが、検索はコメ兵さんだけが2017年・2020年とも変わらず○で、ほかの皆さんは△か×ですね。

藤原さん、なぜ検索に力を入れているのか、過去3年間のアップデートも含めてお聞かせください。

藤原 当社の場合、ラグジュアリーブランド名の指名キーワードで多くのお客さまが流入するので、SEMは必須です。2017年と比較して最も大きく変わったのはSEO。2017年頃はSEO対策、いわば“Googleをハックする”取り組みが中心でしたが、現在はコンテンツマーケティングが中心です。これは年々、爆発的に伸びていますね。

社内のプロフェッショナルがコンテンツを制作し、専門の広告会社に編集・配信してもらう体制でCPAを下げられるようになりました。かなりの手応えを感じていて、テレビCMやチラシなどオフライン施策にかけていた費用を特にSEMに振り向けています。  
  
藤原義昭
コメ兵 マーケティング統括部 執行役員
1999年コメ兵入社。2000年に同事業部のEC立上げに携わり、2010年現在のIT事業部の前身であるWEB事業部を新部門として設立同部長に就任。2014年基幹システムを含む社内システム全般を統括するIT事業部に業務範囲を拡大し、現在WEB事業(EC、買取)ならびに全社WEBマーケティング、全社内システムを統括している。

西井 一方でディスプレイ広告は、明らかに変化が見られて面白いですね。2017年当時の登壇者5名の取り組み状況を見ると、○が2人、△が3人。しかし2020年は、皆さんほとんど×ですね。

会場の皆さんも同じような実感をお持ちだと思いますが、時代を感じませんか。児玉さんは昔、純広告にすごくこだわりを持っていらっしゃいましたよね。

児玉 はい。2015年にラクサスをローンチする前は、英会話教材「エブリデイイングリッシュ」など単品通販が主力事業だった関係で、純広告をバンバン出していましたし、効果も十分にありました。しかし、いまは全然ダメですね……ディスプレイ広告では売れないし、クリックすらされません。

単品通販では「あっちより寝心地の良い枕」「そっちより高級な化粧品」のようなリプレイス訴求が効いたのですが、ラクサスのような新規性の高いサービスだとそれが効かない。誰か、上手い売り方を教えてください(笑)。  
  
児玉昇司
ラクサス・テクノロジーズ代表取締役社長
早稲田大学入学半年後に最初の起業。会社売却などを経て、自身4度目の起業となるラクサス・テクノロジーズ株式会社を創業。 2015年2月、毎月定額でラグジュアリーブランドのファッションアイテムが無限に使い放題になるC2Cシェアリングプラットフォームアプリ「Laxus(ラクサス)」をローンチ。会員数は32万人、流通総額は450億円を突破し、毎月の会員の継続率は95%以上。国内のシェアリングサービスで利用率1位を獲得。

西井 児玉さんがトップランナーなんだから、誰かが知っているわけがないでしょう(笑)。ただ、実は僕も「LOVOT」で似たような課題を持っています。「ロボットと暮らす生活をしましょう」とディスプレイ広告を打ったところで、ユーザーはほぼクリックしません。なので、LOVOTはリマーケティング広告を少しやるくらいです。FABRIC TOKYOは、どうですか。

森 
リマーケティングはかなりやっていますし、通常のディスプレイもそれなりに出稿していますよ。ブランド認知/新商品認知/出店認知など、目的別に使い分けてPDCAを回していると、だんだんCPAが見合ってきます。むしろ、我われの領域ではリスティング広告のクリック単価が高騰し始めているので、そちらの方の出稿を控えています。  
   
森 雄一郎
FABRIC TOKYO 代表取締役社長
デザイナーズ不動産賃貸「ソーシャルアパートメント」のCEO山崎剛氏と、フリマアプリ「メルカリ」をつくる元ウノウで現メルカリ社CEOの山田進太郎氏の元で経験を積み、FABRIC TOKYOを創業。自身が洋服のサイズに困っていた経験から、2014年2月にカスタムオーダーのファッションレーベル「FABRIC TOKYO」をリリース。

西井 例年のセッションでは、広告の話題ですごく盛り上がるのですが、2020年の取り組み状況を見ると、みなさん広告はあまり活発ではないんですよね。ただ、「ソーシャル」は唯一の例外のようです。FABRIC TOKYOは特に純広告においては、2017年に○が多いですね。ディスプレイと比較していかがですか?

森 
専任スタッフを置いて、デイリーでチューニングするようにしてからパフォーマンスが高まりました。LINEはターゲットが合わないのか反応が鈍いため、Facebook、Instagram、Twitterに注力しています。

藤原 
当社はFacebookだけ○を付けました。ターゲットの年齢層がやや高めということもあり、TwitterよりもFacebookのほうがよく流入する印象があります。

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