ダイレクトアジェンダ2020

「頻度より深度」お客さまを置き去りにした、古いマーケティングに固執しないために 【西井敏恭 × 田岡敬】

  2020年2月に宮崎県で開催された「ダイレクトアジェンダ2020」。その締めくくりとなったラップアップディスカッションに登壇したのは、ダイレクトマーケティング領域で数々の実績を上げてきたオイシックス ・ラ・大地 執行役員 CMTの西井敏恭氏と、エトヴォス 取締役 COOの田岡敬氏(当時)。

  現在のダイレクトマーケティング領域の課題を指摘しながら、マーケターが明日から取り組むべきミッションを提示した、このセッション。コロナ禍を経て、ECはじめ通販ビジネスの重要性が増した現在こそ必要になるという考えから、書き起こしレポートをお届けする。
 

ブランド体験は「頻度より深度」


西井 僕が田岡さんと知り合ったのは5~6年前で、当時はJIMOSという化粧品・健康食品の通販会社の社長を務めていらっしゃいました。その後、ニトリホールディングスの上席執行役員になり、入社時に売上高200億円強だったニトリのECサイトを2年で400億円近くにまでほぼ倍増させるという驚異的な実績を残されています。

エトヴォスの取締役になってからはまだ1年ですが、売上は凄まじく伸びていると聞いています。僕にとって田岡さんは、師匠のような存在です。     
    
西井敏恭
オイシックス・ラ・大地 執行役員 CMT(Chief Marketing Technologist)/ GROOVE X CMO/シンクロ 代表取締役社長
化粧品会社にてデジタルマーケティングの責任者を務めた後、独立。オイシックス・ラ・大地で3つの部署を管轄し、シンクロでは大手企業やスタートアップのマーケティング支援を行う。著書に『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』(翔泳社)など。

田岡 人生史上、最高の紹介をしていただき、ありがとうございます(笑)。さて早速ですが、2日間で行われたさまざまな議論の論点をフレームワーク化してみました。    
    
田岡 敬
エトヴォス 取締役 COO(当時)
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

まず、商品カテゴリを問わず、「商品の性能や品質だけで差別化するのは非常に難しくなってきている」という状況があります。

また、デジタルツールの発達・整備を背景に、「付帯サービスやコミュニケーションが、商品とともにブランドの競争力を決する重要な要素」になってきている。

つまり、今は「商品+サービス」でユーザーの体験をつくる時代というわけです。商品とサービスが揃って初めて、ブランドの提供価値と言えます。



オープニングキーノートにも登壇したFABRIC TOKYOが良い例です。商品自体、自転車通勤やバックパックスタイルにもフィットする商品を用意するなど、ユニークで着心地の良さを極めたオーダーメイドスーツ。加えて、実店舗での採寸は、身体のコンプレックスやなりたいイメージを踏まえて丁寧にカウンセリングしながら行われます。商品とサービスが合わさって、FABRIC TOKYOにしかないブランド体験が形づくられています。
 
FABRIC TOKYO銀座店

そしてこの「体験」について、僕がこの2日間で強く感じたのは「頻度より深度」が重要だということです。

西井 実は、オープニングキーノートの資料をつくっているときから、僕もそう感じていました。今回、スポンサープレゼンテーションも、そのあたりのお話が多かったですね。

田岡 最近よく「CRMが効かない」と言われます。顧客と高頻度で接触していても、一つひとつの体験が刺さっていないケースが非常に多い。日常生活の中にこれだけ情報が溢れていると、一定の深度がないものは、ほとんど効果がないんですよね。

その点、FABRIC TOKYOのフィッティングは「これまでにない、一生忘れられない体験」と言えますし、同じく分科会に登壇した中古車のガリバー(IDOM)のAI査定アプリは、店頭なら1時間かかる査定を3分で完了してしまうという驚きのサービス体験です。

クルマの購買周期は約7年で、その期間をずっとCRMで追い続けるのは難しい。「3分で愛車の下取りの見積ができた」という圧倒的な体験で、7年後に第一想起を獲得しようという戦略です。まさに、「頻度より深度」だなあと。



こうしたブランド体験価値を高めていく手段として、カンファレンス全体で「データ」の話もたくさん出ました。顧客の行動データや購買データ、VOC(Voice of Customer)といった多様なデータを基に、商品・サービスの進化につながるインサイトを得る。

また、一人ひとりの顧客とブランドとの間にひとつずつ固有の物語を紡いでいく――ブランドをナラティブ化していく上でも、データは非常に有用と言えます。

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