ダイレクトアジェンダ2020
「頻度より深度」お客さまを置き去りにした、古いマーケティングに固執しないために 【西井敏恭 × 田岡敬】
2020/06/22
従来型の通販と、D2Cブランドとの違いとは?
田岡 こうしたブランドづくりを実践し、いま躍進を遂げているのが、D2Cやサブスクリプションと呼ばれるビジネスです。いわゆる従来型の通販とD2Cとの違いや、定期型通販とサブスクリプションの違いを、西井さんはどう捉えていますか?
西井 もう僕が話すことがないくらい、田岡さんがつくったスライドにまとまってしまっているんですけど…(笑)。
僕自身、従来型の通販、特にメーカー通販とD2Cの違いを長らく理解できずにいたんです。ただ今回のダイレクトアジェンダは、まさにその解を出してくれたと思っています。
両者は、ビジネスモデルはまったく同じと言っていい。自分たちが製造したものを、お客さまと直接つながって販売する――。では、D2Cとは何か。
それは、ブランド側の思いを一方的に伝えるのではなく、「商品・サービスを使ってもらうことを通じて、ブランドをどういう存在として感じてもらうか」を起点に、すべての体験を設計しているのが、D2Cなのではないかと考えています。
ダイレクトアジェンダ2020のテーマである「ナラティブ」は、「ストーリーテリング」の対義語。ストーリーテリングはブランドの“自分語り”で、ナラティブは顧客とブランドの対話のようなものです。D2Cブランドは、ストーリーテリングではなくナラティブを重視しているブランドと言えるのではないでしょうか。
ひとつ例を挙げると、かつてオイシックス・ラ・大地の高島宏平社長が「オイシックスが考える、サブスクリプションとは?」と尋ねられた際に、「暮らしの選択」と答えていたのが印象的です。
つまり、お客さまが選択したい暮らしをサポートするということなんです。オイシックスって、一面的には「有機野菜の宅配通販」と思われがちなのですが、僕らが実現したいのは「豊かな食卓」をつくること。そして、「豊かな食卓」の定義は、人によってそれぞれ異なるでしょう。
誰もが、美味しい食事を食べたいと考えている。その前提に立ったとき、農薬がたくさん付着した野菜では心から美味しいとは思えず、「豊かな食卓」を提供できているとは言えないのではないか。だから、オイシックスは有機野菜を取り扱います。
あるいは、たとえ美味しくても調理に手間がかかり過ぎるようでは、それも「豊かな食卓」とは言えないのではないか。だから、オイシックスはフィロソフィーに「Easy」という言葉を掲げ、お届けするミールキットはいかに簡単に調理・片付け・ごみ捨てできるかを重視しています。
田岡 オイシックスとお客さま一人ひとりの間には、それぞれ異なる物語があるということですよね。オイシックスが提供している、深度を重視したブランド体験には、どんなものがありますか。
西井 オイシックスには、ミールキットを含む人気食材が詰まった「お試しセット」があります。シメジの匂いやコマツナの歯ごたえなど、「そこらへんで買える食材とは全然違う!」と、食材一つひとつに絶対の自信を持ってお届けしています。
避けたいのは、それらの食材でカレーをつくられてしまうこと(笑)。野菜をたくさん買うとカレーをつくりたくなるという方は想像以上に多いのですが、そうなると個々の食材の個性・魅力がどうしても感じにくくなってしまいます。
そこで僕たちは「生で食べてみてください」というコミュニケーションをしています。食材の魅力、オイシックスの価値を、お客さまにきちんと体感していただける状態を意図的につくっているんです。
また、お届けする食材に同梱しているレシピにも工夫があります。普通のレシピは「この食材をこのタイミングで入れてください」といった指示が主流ですが、オイシックスのレシピには「このタイミングで、ここに入っているお菓子をお子さんにあげてください」という手順が記載されています。
「〇分間、鍋をふるい続ける」など、料理から手が離せなくなる手順の前後に、お子さんの存在に目配せした工程を盛り込んだところ、ママたちの共感を得ることができました。