ダイレクトアジェンダ2020

深度のあるブランド体験。そこから、誰しもが逃げてはいけない 【西井敏恭 ×田岡敬】

 

「深度のある体験」は、どうつくる?


田岡 「深度のある体験」って、一体どのように設計していけばいいのでしょうか。皆さん、理屈は理解できるでしょうが、「では自分のブランドはどうするべきか?」がまだ見えてこない方も多いと思うんです。

西井 ひとつは、データが大事だと思います。ナノコンピュータやIoTによって、ユーザー体験に関する豊富かつ多様なデータが取得できるようになりました。これまでの通販ビジネスで把握できるデータといったら、お客さまが「商品ページを閲覧した」「商品を購入した」データくらいで、それを基にRFM分析をするくらいしか打ち手がありませんでした。

しかし、今はより詳細なWeb閲覧データが取得できますし、LINEアカウントやアプリでのインタラクションも把握できます。さらには気象情報などの外部データと掛け合わせて分析することも容易になりました。購買や離脱の背景にある経緯を詳細かつ正確に知ることができるようになったので、サービス改善や新たな体験創出につなげやすい時代ではあると思います。

外部データの活用について面白いと思ったのは、UGCの話です。Twitter上のUGCの数が、指名検索にものすごく大きな影響を与えるんだなと、今更ながら驚きました。



僕が、日本を代表するD2Cブランドと認識しているのが、田岡さんが務めるETVOS。お話を聞くと、指名検索数がとても多いんですよね。テレビCMを打っているわけではないし、取り扱い店舗も多くない。では一体どんなコミュニケーションをしているのか――。

ひと言で言うと「化粧品通販」ぽくない。「肌が潤う」「ニキビが治る」といった広告訴求をしておらず、ソーシャルメディアでのコミュニケーション、特にUGCが中心なんですよね。Instagramをはじめソーシャルメディアでの言及数がとにかく多いことに驚きます。

田岡 おかげさまで、グーグルトレンドを見ると、スマートニュースと同じくらいの数、検索されているようです。

最近は、YouTubeから売れることも多いんです。例えば、ETVOS愛用者のひとりである「モテクリエイター」ゆうこすさんの使い方紹介動画を経由してETVOSサイトにやってくる方はかなりいます。



ゆうこすさんに限らず、ETVOSユーザーの皆さんは、自身の肌質や悩みに合わせて工夫して商品を使ってくださっていて、それぞれ驚くほど使い方が違うんですよ。そういう使い方の紹介動画が次々とアップされて、ブランド側が追いきれないほど。急に品切れになってしまうことも多々あります。

西井 何がすごいって、ブランド側から動画制作を依頼しているわけではないことですよね。実際に愛用されていて、ある意味勝手に発信しているのが、視聴者にも伝わるのでしょうね。

田岡 ソーシャルで発信してくださるのは、ブランドとお客さまの間に物語があるから。特にメイクは、皆さんそれぞれ違う使い方や独特の工夫があるので、物語が生まれやすいように思います。

西井 「深度のある体験」をつくるための方法として、もうひとつ。オープニングキーノートでラクサス・児玉さんから出た「原価率を上げるべき」というお話が答えになるのではないでしょうか。

コストパフォーマンスに対する感動は、ブランドとお客さまの間に物語を生みやすく、ソーシャルメディアでのUGC増加につながりやすい気がします。

これまでのKPIや原価構造にとらわれていると、あっという間に古いビジネスになってしまいます。これまでは「ソーシャル=若年層対策」という印象がまだまだ強かったと思いますが、もはや40代・50代、さらには60代も、普通にソーシャルメディアを使いますからね。

繰り返しにはなりますが、D2Cビジネスが勢いを増す中、多くのブランドがビジネス前提を設計し直すタイミングに来ていると思います。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録