ダイレクトアジェンダ2020
深度のあるブランド体験。そこから、誰しもが逃げてはいけない 【西井敏恭 ×田岡敬】
2020/06/24
ブランドをシンプル化することが、物語を語る余白をつくる
田岡 この2日間の話題の中心、FABRIC TOKYOの森さんからもコメントをいただきましょうか。
森 「頻度より深度」に関連して、周りの方々と「深度をどうKPIに落とし込めばいいか」という話をしていたのですが、話すうちにだんだんと「KPIを設定すること自体、意義が怪しいんじゃないか」という疑念が湧いてきました。
そもそもKPIは管理側の都合で設定するものなので、お客さまや、お客さまと直接対峙する接客スタッフやカスタマーサポートスタッフにはあまり関係ないもの。
KPIなんて考えなくても、「良い体験をした」とお客さまが思ってくださりさえすれば、今後もきっと自社ブランドを選んでくださる。KPIを設定すること自体、本当に必要なのか疑ったほうがいいという話で盛り上がりました。
西井 確かに、これからのダイレクトマーケターには「そのテストや指標、本当に必要ですか?」と問い直すことが求められると思います。
「お客さまにより良い体験を提供する」という目的を見失って、ただやみくもにA/Bテストを重ねている……という状況が少なからずあるのではないでしょうか。一旦歩みを止めて、たとえステップバックしてしまう形になるとしても、従来の考え方を改める必要があると思います。
田岡 先ほども話に出ましたが、“塵も積もれば山となる”スタイルで、つい施策をどんどん足して複雑に積み上げていこうとしてしまいがちですが、大元となる「深度のあるブランド体験」をどうつくるかを考えることから逃げてはいけないと、あらためて思います。
サービスサプライヤー各社からの「複雑なこと、できますよ」という誘惑に、安易に乗らずにね(笑)。
西井さんと話していたのですが、お客さまがソーシャルに投稿するのは、「私のブランド」と感じられたからなんだろうねと。
私にとってのETVOS、私にとってのオイシックス、私にとってのFABRIC TOKYO。実際、SNSの投稿は、♯my○○というタグを良くみますね。ソーシャルの投稿は「深度のあるブランド体験」をしたお客さまの、ナラティブが具現化したものなんですよね。
西井 「この人と飲み会している写真を、ソーシャルに投稿されたらイヤだな」と思うことってあるじゃないですか(笑)。
ブランドにも同じようなことが言えると思うんです。同じ化粧品でも、使っているのがバレたらちょっとイヤなものと、むしろ使っていることを自慢したい、「私の」と言いたいものがあるなと。ETVOSもオイシックスのミールキットも、「私の」になりやすいプロダクトなんじゃないかと感じます。自分ならではの物語を語りやすい「余白」があるというか。
20年前はソーシャルメディアもブログもなくて、自分の食卓の写真を撮る人なんていなかったはず。10年前になると、料理ブロガーさんが食卓の写真をブログに投稿するようになった。そして今や、誰もがInstagramのアカウントを持って、自分が食べたものや食卓の写真を投稿しています。
そういう意味で言うと、お客さまのライフスタイルや、リアル/デジタルの行動様式がどんどん変わっていく中、それをきちんとキャッチアップして、お客さまの生活動線にどう入り込んでいくかを考えることが、ナラティブブランドになるために不可欠な視点ではないかと思います。
田岡 データを含めてしっかりお客さまを見ながら、誰しもが「深度のあるブランド体験」をつくることから逃げないこと。これが、ダイレクトアジェンダ2020参加者共通のミッションと言えそうですね。西井さん、ありがとうございました。
- 他の連載記事:
- ダイレクトアジェンダ2020 の記事一覧