ネプラス・ユー2020 #01

ブランドと販促、利益を生むのはどちら? サントリー、ダイキン、ライオン、日産が議論【レポート】

 

販促に流れがちな現場に、ブランドの価値を説く


 続いて、ライオンで「クリニカ」のブランドマネジャーを務める横手氏は、日用品という業界の特性から「常にブランドと販促のどちらを優先させるかという議論の渦中にある」と語る。その状況に対して、横手氏は「今日のテーマである『ブランド VS 販促』、我われはまさにこの対立構造から脱却するために、ブランドの価値を翻訳して小売業はじめパートナー企業に伝えています」と切り込んだ。

 ここで言うパートナーとは消費者、販売店、卸店の三者を指し、そこに向けてブランドの価値を伝えていく必要があるという考えだ。ただし、その中でも、どうしてもすぐに利益につながりやすい販促に流れる傾向があり、「そこをどのようにブランドで超えていくかが、自分の大事なテーマになっています」と横手氏は言う。

 例えば、オーラルケア商品のブランド価値を翻訳すると、消費者にとっては、「オーラルケアへの意識が高まることで健康な歯や口の環境を保てること」。一方で、販売店にとっては、「人口減少の進む世の中で消費者の意識を高めていくことによって購入本数や購入単価の増加につながっていくこと」。卸店にとっては、「オーラルケア商品をまとめた売り場展開が効果的にできること」が挙げられる。こうした翻訳した価値を売上につながる戦略にしていくことが、販促とブランディングを一緒に進めるポイントだ。

 ブランディングのために、横手氏が担当するオーラルケア事業では、テレビCMで商品のパッケージを映さず、虫歯予防の必要性を訴えるクリエイティブを7年間放映し続けている。このCMを通してオーラルケアへの意識を高めることで、「長い目で見れば、パートナーさまはもちろん、お客さまや社会との三方よし、ひいては口腔ケアにかかる医療費が減ることで行政との三方よしも叶うと考えています」と、横手氏は述べる。



 ただし、最初は「そんなことより、今月の売上はどうするの?」と、ブランディングに共感する卸店や販売店は少なかった。そこで社内の営業担当者には、「なぜ今、予防歯科が必要か」を説明する資料を商談資料として持ってもらい、歯医者の定期検診に行っている人は行っていない人に比べてオーラルケアのために購入する商品の質などが2倍違うことを説明していった。また、店頭でブランディング施策を展開した店舗では、2カ月後に顧客一人当たりの購入数が増えているというデータで証明し続け、それを横展開させていったと話す。

 「ブランディングの価値を理解してもらうポイントは、1年単位だけではなく、直近の2カ月単位で、その利点を語ること。歯磨き粉だけを訴求したプロモーションでは、来月その歯磨き粉を買う人しか増えない。しかし、歯磨き粉と一緒にオーラルケアをおすすめしていた場合、2カ月後にはいつもは200円の歯磨き粉だけを買っていく方が、追加で200円の歯ブラシも買うことがあるんですと伝えています。そうなると、客単価は2倍になります。日用品においては、その小さな積み上げが大きな利益につながるため、それを徹底的に訴求しました」(横手氏)。

 ※    後編「ブランドと販促を対立構造にしないことが大事」に続く
他の連載記事:
ネプラス・ユー2020 の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録