リテールアジェンダ 特別企画

小売業のDXには、“楽しさ”のデザインが必要


 グランドデザインの村尾大介です。“報酬システムデザイン”に沿った買い物マッチングプラットフォーム「Gotcha!mall(ガッチャ!モール)」を運営しています。ちなみに「報酬システムデザイン」とは、脳の神経回路である報酬系(リワードシステム)の原理に基づき、社会課題を解決するシステムデザインを行うことです。

 私は日頃から、コンビニ・スーパーマーケット・ドラッグストアをはじめとする、日常の買い物を支える小売企業と、くらしが充実する商品を提供するメーカー双方のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する立場にあります。

 12月8日、9日に行われる「リテールアジェンダ2020:Marketing ∞ Merchandising~ Maximizing The Value~」のカウンシルメンバーを務めていることもあり、その開催に寄せて、みなさまのDX推進の一助になればと思い筆を取りました。
 
 リテールアジェンダ 12月8日、9日 東京開催
 リテール領域に関するマーケターが集結。メーカーとリテールの連携、リテールのデジタルトランスフォーメーション、デリバリー戦略などいま注目のセッションを行います。
 
 

DXとは「電動アシスト自転車」


 DXについて考えるとき「DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?」という問いにひとつの正解を出すことより、一人ひとりがその意味を噛み砕き腹落ちしていくことが大事だと考えています。

 それは、突き詰めると「自社は何者か?」という企業の存在意義に目を向けて掘り下げていくことになります。そんなプロセスを私がご一緒する中で現在、DXについて最もしっくり来ている表現が「DXは電動アシスト自転車」です。

 「自転車」が「電動アシスト自転車」に変わることで、例えば、主婦が重い荷物を自転車のカゴに入れて息を切らして買い物する面倒さがなくなるかもしれないし、ペダルをこぎながら子どもと笑顔で会話できるかもしれません。少し遠くの公園に足を伸ばして新しい思い出づくりができることもあるでしょう。



 これは私が仲良くさせて頂いている「主婦兼マーケター」にDXについて表現してもらった時の話ですが、生活者感覚でとても分かりやすいと感じています。

 ビジネスサイドからDXを見る場合、どうしても「売上拡大」「業務効率化」「人材育成」といった提供側の課題が自覚している以上に顔を出し、手段に光が当たってしまいがちです。当然、利益をつくる必要のある企業ですので、それらが重要であることは前提にあります。

 とはいえ、誰しもひとりの生活者であるにも関わらず、タイムカードを押して働きはじめた途端に“企業側の正義”が顔を出し、生活者視点になれない「タイムカードパラドックス」とでも言う現象が発生します。

 企業活動の一部に伴走するパートナー企業はなおさら、部分的な関与に留まりがちですので、忖度なしに価値に対してお金を払う「生活者」側の言葉で理解するように努める必要があります。当社では「囲い込む」「買わせる」などの企業の押し付け言葉は禁句としており、皆さまにもぜひおすすめします。

 また、ある有名なプロダクトデザイナーは「全てのプロダクト(椅子も車もマグカップも)は反復して使うことが前提、プロダクトとの別れは習慣の喪失である」「ほとんどのプロダクトは機能していない時間の方が長い、その時間にどうあるかで真価を問われる」とおっしゃいます。

 小売業の場合、お店自体をプロダクト(およびサービス)だと捉えると、「習慣の喪失は“顧客離れ”」を「機能していない時間は”店外”」を指します。

 DXは「新たな技術によって新たな価値をもたらすこと」であり、当然ながらみなさまは「一過性のものではなく反復して利用されること」を望まれると思います。だとすれば、以下の質問に明確に答えられる場合に、「DXとは何か?」がクリアになっているのと言えるのではないでしょうか。

 「あなたのプロダクト(店舗・商品)はターゲットの生活に、どんな新しいリズムを加えたいですか?」



 みなさまがテクノロジーを活用して、これまで提供できなかった「新しいリズム」を提案し、受け入れられた場合、新たな客数・購買頻度・購買点数が持続的に増えることでしょう。

 こうしてDXのスタートラインに着くことができたとしても、その実行は口で言うほど容易いものではありません。なぜなら「正しければ、やってもらえる」と言うのは、人間を相手にする限り、通用しないと考える必要があるからです。

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