リテールアジェンダ 特別企画

小売業のDXには、“楽しさ”のデザインが必要

 

報酬システムデザインのあるDX


 脳の報酬系と言うと小難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「198円(イチキュッパ)の理論」「大量陳列効果」「好きな商品に貼れる10円×10枚のクーポンシールに長蛇の列」など、リアルの現場で起きている反応と同じものです。小売のみなさまと1時間お話させて頂くと、こういった具体事例をたくさんお聞きすることができます。

 しかし、今の時代に合わせてデジタルを軸に設計しようとすると2つの点で難易度が上がります。

 ひとつは「店外(も含めた)体験のデザインが必要」ということと、もうひとつは「報酬の感じ方はお客様個々に異なる」ことへの対応です。

 そこで、まずはおすすめしたいのが、起きている事象を汎用的な行動原理に置き換えて考えることです。これらの行動原理がうまく組み合わせられたものであればあるほど、お客さまにも喜んで頂きながら施策の成功確率を高めることができます。

 参考)報酬システムデザインフォーマット:行動原理×施策マトリックス



 この施策は新規客向け、この施策は買上点数向上が目的など、施策と目的をマトリックスにすることはよくあると思いますが、同様に「人間であれば必ず当てはまる脳科学で証明された行動原理」と施策のマトリックスをぜひつくってみてください。報酬システムデザインの観点で、施策の品質を確認することができます。

 例えば、当社の「Gotcha!mall(ガッチャ!モール)」がわざわざ、カプセルトイをPLAYするという一手間を加えてインセンティブを提供するのは少なくとも次の効果を組み合わせて「楽しさ」を伴うシステムデザインをしているためです。

 ①    報酬予告効果:見慣れた報酬でも“出るかも!?”という予告とセットで提供するとドーパミンが出る現象
 ②    報酬予測誤差(不確実性):手に入ると予測したものと誤差があるほどドーパミンが出る現象(10円→10円→50円という順番で見るものと、100円→100円→50円とう順番で見るものでは、同じ金額でも体験価値が変わる)
 ③    アフォーダンス理論:見ただけで何をすれば良いかわかるデザイン(コインを渡されてガッチャ!のハンドルを見たら回すべきであるとわかるため、つい触れたくなる)
 ④    バーナム効果:誰にでも当てはまりそうなことを、自分にズバリぴったりだと感じる現象(回して出会うインセンティブを一人ひとりに出しわけ)

 お客さまの負を解消する方向のDXはどの企業においても必修科目となることと思います。もう一方でお客さまの「楽しさ(=新しいパターンの発見)」を増やす報酬システムデザインを身につけ、マーチャンダイザー兼ゲームデザイナーになれる人がひとりでも増えれば、小売に明るい未来を引き寄せることができると信じています。当然、結果として「売上拡大」「業務効率化」「人材育成」につながるはずです。

 リテールアジェンダ2020にて、垣根を超えた新しいパターンの出会いから、楽しい仕事につながることを期待しております。
 
 リテールアジェンダ 12月8日、9日 東京開催
 リテール領域に関するマーケターが集結。メーカーとリテールの連携、リテールのデジタルトランスフォーメーション、デリバリー戦略などいま注目のセッションを行います。

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