ワールド・マーケティング・サミット レポート #01
向き合うべきは環境変化ではなく、顧客変化。コトラー教授からの「危機を乗り越えるアイデア」
2020/12/22
世界標準のマーケティングにおける見地
「Ideas for Critical Times(危機を乗り越えるためのアイデア)」をテーマとし、2020年11月にワールド・マーケティング・サミット(以下WMS)が行われた。コロナ発生以降、国内外の多くのサミットがオンラインに移行したが、WMSも開催史上初のオンライン開催となった。
登壇者は経営学の権威を含む実に80名に及び、持続的な解決策を見出すための方策をさまざまな視点から論じた。日本からは、一橋大学の野中郁次郎名誉教授、元ネスレ日本 代表取締役社長でケイアンドカンパニー代表取締役社長の高岡浩三氏も登壇した。
発信先も世界である。5カ国語に対応し、世界100カ国以上の参加者に届けられた。開催から約1カ月間はアーカイブで動画を見るという参加の仕方も採用した。さらにその後、期間延長で動画を見られるプランも提供している。
コロナ感染拡大がもたらした急激な変化を契機として、時間と空間の制限を取り払った。規模と期間共に拡大したことにより、オフライン開催では考えられない規模のマーケターにリーチしたと思われる。知の探索への門戸を広く開き、デジタルシフトによる可能性を自ら実践して見せたわけだ。
より多様な登壇者が世界から集い、世界に向けた発信をさらに強くしたことから、一言で言えばWMSは参加者にとっての価値が大きくなった。知を解放する姿勢を示し、デジタルシフトによって参加する顧客への提供価値を引き上げたのだ。コロナに襲われた2020年を経て、2021年以降にどう向かうか。「世界標準のマーケティングにおける見地」を示すカンファレンスになったと言えるだろう。
「変化か死か」
コトラー教授は、冒頭に基調講演(といっても、デジタルアーカイブ上では順序はないのだが)を行なった。「コロナ時代の新しいマーケティングの考え方New Marketing Thinking in the Ave of Coronavirus」と題し、変化の時代にあることを鋭く具体的に突いた。
コロナが収束するまでの期間をマーケターとしていかに想定するかの重要性について述べながらも、顧客変化が急速にしかも巨大なうねりとして起きていることを示した。
また、これから立ち現れる5つの顧客像として「シンプルライフ派」「反成長アクティビスト」「環境アクティビスト」「健全な食事選択者」「保全アクティビスト」を示し、これに対応する必要性を説いた。
コトラー教授が示したのは、我われが向き合うべきは顧客変化であるという端的な指摘だ。環境が変われば、顧客も変わる。環境変化だけと言うなら「過ぎ去るまで耐える」という選択肢もあり得るかもしれないが、顧客変化に対して「耐える」という選択肢を取ることは自殺行為だ。
顧客変化に直面すれば、企業は自ら変化するしかない。コトラー教授が講演の最後に示した言葉は、「5年後にいまと同じビジネスを行なっている企業は消えているだろう(Within five years. If you’re in the same business you are in now, you’re going to be out of business.)」というものだった。メッセージは、「変化か死か」である。