ワールド・マーケティング・サミット レポート #01

向き合うべきは環境変化ではなく、顧客変化。コトラー教授からの「危機を乗り越えるアイデア」

 

「デジタルへの投資」


 その上でコトラー教授は企業の回復戦略(Business Recovery Strategies)を示した。そのうち「直近に行うべき回復戦略(Near Term Recovery Strategy)」として、「再開に向けた準備と発表」「広告メッセージのつくり直し」「デジタルマーケティングとデジタル投資の強化」そして「顧客サービスの強化」を挙げた。

 「デジタル投資」と「顧客サービスの強化」の2つを並べて提示したことには、とても大きな意味がある。

 コロナ禍においてDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を目にしない日はないが、「デジタルになんのために投資するのか」と問えば、いまだに企業内でも答えがバラバラになることは珍しくない。コトラー教授のこの言葉は、とてもシンプルだ。「デジタル投資は、顧客サービスを強化するために行う」だ。



 私が初めてWMSに参加したのは2015年だったと思うが、そこで強烈なショックを受けたのは、コトラー教授が「日本にはプロモーションはあるがマーケティングがない」と指摘したことだった。

 いまDXにおいても同じことが繰り返されているのではないかという危機感を強く感じる。

 「顧客を囲い込むためにデジタルを行う」というのは「デジタルプロモーション」の発想である。囲い込まれていると気づいて良い気持ちがする顧客はほとんどいない。

 誰もが自由に幸福を追求できる社会を目指しているのであれば、現代において最も尊重すべきは顧客の「選択する権利」である。確かにいまや顧客の選択肢は無限にあり、その中で自社を選び続けてもらうのは難しい。しかしデジタルは「企業が手にした顧客の選択肢を狭めるためのツール」ではなく、「顧客が手にした選択肢を広げるためのツール」であるはずだ。

 いまさらながら企業は「デジタルプロモーション」に投資するのではなく、デジタルによって顧客に向けた商品サービスそれ自体を強化することに投資する必要がある。つまり「デジタルマーケティングを考えよ」と、コトラー教授は示唆しているのだ。

※後編に続く
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