ワールド・マーケティング・サミット レポート #02

顧客の世紀 ー ワールド マーケティング サミットで示された道標

 

問いと道標


 コロナ禍という苛烈な環境変化に直面し、マーケターは生き残りを掛けて必死に戦っている。WMSが知のリーダーを集め、“Ideas for Critical Times(危機を乗り越えるためのアイデア)”として示すものが、短絡的な答えや上手くやり抜くノウハウなどであろうはずがない。示されたのは「問い」と、それを考えるための「道標」である。

 まず問いは、「変化か死か」である。この究極の問いには、選択の余地はない。しかし変化を選ぶとしても、どの方向に走り出すべきかがわからない。重要なのは変化の方向性を示す「道標」である。

 その道標が「デジタルを変革に取り入れること」でないことは確かだ。もはやそれは前提に過ぎない。単にデジタルへの投資を増やしたところで、それ自体が成果を上げてくれることはない。そのことは、既に(数々の痛い思いをしたこともあり)皆が気づいていることだ。

 ではWMSで示された道標とは何か。それは「顧客を見よ」という一言だ。環境が変わったということは、現象に過ぎない。課題の本質は顧客変化にある。



 「企業の生死が掛かっている時に、そんな流暢な綺麗ごとを言っている場合か」という反応は、想像できるがそれは課題の解釈を間違えている。確かに、コロナ禍では多くの企業が死の淵を見た。

 しかし企業の生死が掛かっているからこそ、顧客を見るのだ。企業の生死を決めるのは、いつの時代にも顧客である。「顧客が困っている時に顧客を助けた企業こそが、顧客の頭に残る。その行動を取れた企業だけが、コロナ後も生き残るだろう」。コトラー教授の言葉が、このことを示している。

 21世紀に入り、既に20年が経過した。20年は先延ばしにできたマーケティング変革は、コロナウイルスのパンデミックによって一気に死活問題になった。「いまこの状況下だからこそ、改めて環境変化ではなく顧客変化を見よ」。一見すると原則に過ぎるように思えるこの「道標」は、最も本質的で最も強力なものだ。

 デジタル化とコロナ禍という2つの激流に飲まれた企業に対して、改めて「真に顧客基点たり得ていたのか」という自省を突きつけるものだ。

 同時にこれからさらに激しさを増すであろう、Amazonなどのオンラインから攻め入る企業との戦いにおける本質が、「顧客基点のマーケティングに回帰すること」にあるという示唆でもある。

 ワールドマーケティングサミットでの知のリーダーたちからの道標は、そのことを端的にそして熱情を持って示しているのではないだろうか。
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