マーケティングアジェンダ2020 #01

刀・森岡毅氏が語る、どんな戦略でも使える“武器”とは

 

消費者理解とは、人間の本能と行動の相関を解き明かすこと


 さて、その「大自然の冒険テーマパーク」というコンセプトが当たるだろうという確信に至った仮説をいかに立てたのかが、今日のメイントピックです。

 「消費者理解」とは何なのか。私は、「本能が支配する消費者の選択の構造を解き明かすこと」と考えています。要するに、人間の本能を理解することなんですね。

 サルの時代から人間は変わっていないと思っています。人間は哺乳類とあまり変わらないとも思います。人間にも、個体が生存確率を高めるための行動が本能レベルでインプットされていて、大脳に依存せずに意思決定できる。生命維持に近い部分、脳の極めて原始的な部分で、仕組みに沿って処理される、それが本能です。

 人間の本能の分析に、私はマーケティング人生の半分以上を使っていると思います。本能とは何か。私の中ではおおよそ仮説が立っていて、十数通りあると考えています。そして、もう少し凝縮すると、7通り程度に絞り込むことができます。

 そのどれかに刺さるコンセプトは強いんです。キリスト教に「七つの大罪」(注)というものがありますが、あれは何千年という歴史を通じてクオリファイされた人間の危険な欲求そのものですから、私が考える本能とも共通する部分が多いです(注:人間を罪に導く可能性があると見なされてきた欲望や感情を指す)。

 「人間の本能には、おおよそこれしかない」とわかっていれば、たとえばネスタを復活させようというときにも、「この山の中で、本能を刺激する方法はないかな?」と考えればいい。仮説が立てやすくなるんです。



 USJのときは、「人はなぜテーマパークに行くのか?」を本能レベルで考えました。人間がテーマパークへ行く理由を本能レベルで理解するために、ありとあらゆるエンターテイメントを勉強し、たくさんのゲームをとことんプレイし、映像コンテンツも隅から隅まで見ました。

 TSUTAYA店舗で『けいおん!』のアニメDVDを借りようと思ったら『萌え系ビジュアル』のパッケージを見て恐れおののいてしまい、娘に頼んで借りてきてもらったことも(笑)。自分の守備範囲外のものも含めて実際に体験し、カテゴリーベネフィットと、それが突き刺さっている「本能」から深く理解することにしています。

 そのとき、「ワクワクするから」「ドキドキするから」というレベルで止まってはいけません。USJ時代の私は「感情便益」と繰り返し言っていましたが、現在はさらに深化して、感情便益のさらに奥に、本能があると考えています。本能を狙って撃つと、上手くいく。だから徹底的にやります。

 最近では、射幸性(ギャンブル性)と本能の関係を理解するために、私自身でネットゲームをやってみました。スマホゲームにハマる人の気持ち、「廃課金ユーザー(ゲームに高額課金するユーザー)」の気持ちを理解したいと思い、2カ月半で400万円を使い込んでみました。もちろん私のポケットマネーです。人はゲームを通じて、しかも高額課金してまで、一体何を得ようとしているのか。本物のヘビーユーザー並にやり込んでみないことには、深いところがわからないと思ったんです。

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