Road to ダイレクトアジェンダ2021 #03

ECサイトは最大の顧客接点、コロナ禍で挑戦した実店舗に近いデジタル体験 アスクル 輿水氏、アダストリア 田中氏【ダイレクトアジェンダ事前対談】

 

強みは「店舗スタッフ」のノウハウ


輿水 アダストリアさんの業績を見てもEC売上高が前期比123%で、売上高構成比の中でECが20~30%に大きく伸びていますね。コロナでEC需要が急激に伸びたという点もあると思いますが、反対に大変だったことはありますか。

田中 大変だったことは思い出したくないのですが(笑)、需要が伸びた反面、「アダストリアの強みはなんだろう?」と立ち返る1年でした。それは実店舗に、休業要請が出されたときでした。

小売は在庫が余ることがビジネス的に痛手となります。そのため、ECでどうにか売らなければいけません。もちろんEC販売は強化して取り組んできたのですが、改めて重要な顧客接点だと気づいたんです。皆さんの会社でも、ECサイトの月間UU数を見ると、かなり多くの顧客との接点になっていることがわかるでしょう。

さらに休業要請が出ていた2020年5月に私が思ったのは、先ほどお伝えした通り、「アダストリアの強みは何か」に立ち返ることの大事さでした。

その結果、アダストリアの強みは店舗スタッフだったのです。我われのECサイトである「.st(ドットエスティ)」でも、スタッフボードに添付スタッフの名前を入れてスタイリングをしているのですが、この取り組みのパワーが改めて浮き彫りになりました。


 
スタッフボード

顧客と接する実店舗のスタッフの持っている知見を生かして、ライブ配信やスタッフ個人のInstagramで商品の発信をしました。そもそもの強み、店舗スタッフと顧客の接点をきちんと生かそうという発想に、去年から注力したのです。

輿水 それは最初から実店舗とECの連携をしていく「土壌」があったからこそ実現できたということですね。

田中 そうですね、いままで積み上げてきた実績があったからこそです。

輿水 個人的にライブ配信に興味があります。中国では1回の動画配信で何百億円も売れたと話題になっていますが、日本ではまだそこまでの成功事例を聞いたことがありません。実際に、ライブ配信をしてみて反響はどうでしたか。

田中 中国は「淘宝直播(タオバオライブ)」はじめ、プラットフォーム自体がECと一体型になっていることが多いですよね。配信もできるし、購入もできるし、その販売方法も上手く、すぐに売上が億単位で動きます。一方で日本はといえば、そこまで売れません。

しかし売上は低く、非効率に見えたとしても、わずかでも購入してくれる顧客を繋ぎ止める効果があります。ライブ配信をきっかけに、実店舗に行かれる顧客もいるのも事実です。

また、ライブ配信の内容をアーカイブすることで、リアルタイム視聴を逃した人も見ることができます。そのアーカイブ視聴を含めてトータルで見ると、売上はある程度伸ばすことができました。
 

コロナ禍で変わった顧客の購買行動


輿水 先ほどの話の延長ですが、ECと実店舗の関係性に変化があったという話がありました。販売スタッフがスタイリングを投稿されたことにより、いつも店舗で購入している人のECでの購入が増えたのでしょうか。

田中 はい、緊急事態宣言などで実店舗に行けなくなった人の購入が増えました。我われはECサイトで日々顧客の声を取得しています。そのコメントの中に「店舗に行けなくてもECで買い物ができるので嬉しい!」という声が増えたのです。本当ならば、手に取って商品を見たいはずなのに、当社としては心が痛む思いでしたが、毎日届く声に元気づけられました。

一方で、商品を手に取れない代わりに、動画などで少しでも着用したイメージが湧いたり、イメージと異なったと不満が生じたりしないように、商品写真を常に見直しています。顧客の声があってこそ、ECを使いやすく変えようという動きにつながっていったのです。

輿水 新規顧客は、どうでしたか。

田中 はい、新規顧客も増えました。いままでは実店舗で商品に触れ、気に入ったら購入してもらい、その後はECでも商品を購入し続けてもらう導線ができていましたが、2020年の動向を見ると、時代が逆転していると感じます。ECで目星をつけてから、実店舗で購入する新規顧客が増えていたのです。

もともと新型コロナよりも3年前から、ECが新規獲得の入口になっていました。そうした状況下で実店舗に行けない状況に陥ったため、信用できる有名ECサイトや「.st(ドットエスティ)」で買い物をする流れになって、増えたと分析しています。

輿水 私もそれはすごく感じています。アスクルは日用品を販売しているのですが、最大の壁は生活者の習慣です。よく「ライバルはどこか?」と聞かれるのですが、日用品を買うときに消費者は「どこで」という購入場所を意識していないことが多く、仕事帰りに近所のドラッグストアやスーパーマーケットで買うケースが非常に多いのです。

実はECで購入したほうが安いし、楽なのに、その習慣をなかなか変えていただけなかったのです。しかし、リアル店舗に行けなくなった瞬間にこの習慣の壁が壊れました。この現象は各業界で起きていると当時から感じていましたが、アパレルでもそうだったのですね。

田中 はい、こんなにも人の行動が変わるのかと驚きました。

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