リテールアジェンダ2021レポート #01

【ファミマ 足立光・スケダチ 高広伯彦】 マーケターは、真の「マーケティング」のために、他部門への影響をあきらめてはいけない


高広 ファミリーマートでいちばん最初にひらめいたアイデアは何でしょう。



足立 「40%増量キャンペーン(人気の定番商品20種類を期間限定で、値段はそのままで40周年にちなみ40%増量した企画)」かな。

化粧品業界は、よく増量施策をします。でも流通業はあまりしてない。だから増量すれば売れるな、と思ったんです。実は「増量」は値引きするよりも収益性が高いです。全商品20円引きと何十%増量を比べると、増量の方がお客さまのインパクトが強いのに、値引きをする必要がありません。つまり、インパクトあるので商品は売れる、でも追加で値引きのお金がかからない(原価が少し上がるだけ)ので収益性が改善できる、そして定番商品が売れるという3つのメリットがあるんです。

そのほかにも、多くの企業に新商品の魔力というのが存在しています。新商品は出せばある程度売れるけれども、それに頼れば頼るほど売上が安定しなくなるし、収益性が悪化します。いかに定番商品を強化するか、それがどの企業でも変わらない課題だと思っています。

さきほどの例で言えば、ファミチキを大きくするだけ(増量)で売れるんです。実は以前、同じような施策をマクドナルドのCMO時代にしたことがあって、それはグランドビックマックです。定番商品を強化しなければいけない、売上を上げなければいけない、収益性を改善しなければいけない、この3つを同時に叶えられるなと思った施策のひとつが、「40%増量キャンペーン」でした。

高広 足立さんは、一般的な企業のマーケティング担当者の業務領域を超えていますよね。商品開発までかなり入り込んでいると思いますが、実際はどうですか。

足立 もちろん商品開発の責任は別部署(商品部)ですが、商品部がつくった商品を売るだけがマーケティングの仕事ではありません。「こういう商品をつくりましょう」と商品部にリクエストして、つくってもらうことも立派なマーケティングだと思います。

高広 完成した商品を売るのも、マーケティングとしてあるじゃないですか。

足立 そういうところもありますね。

高広 それと比べて、足立さんがしているマーケティングは、何が違うんでしょうか。

足立 違いませんよ。マーケティングは4P(プロダクト、プレイス、プライス、プロモーション)とC(カスタマー)が基本だと、いろんな本に書いてありますよね。

高広 そう書いてあるのに、多くの企業でマーケティング部署が実施しているのは、4Pのうちの1つのP、「プロモーション」ばかりに寄っていると思いますが。

足立 例えば、ある化粧品会社で製品担当の方が販促と広告しかしていないなら、その方は製品のマーケティング担当ではなく、販促担当になります。モノをつくらない、値段を変えない、流通もドラッグストアと決まっているなら、その部署はマーケティング部ではなくて販促プロモーション部に名前を変えた方がいいです。

高広 マーケティング部と名前は付いているけれど、実態は販促部になっているという話ですよね。

足立 そうです。あえてマーケティングと言う必要がない。

高広 最近は「元P&Gの人たちのマーケティングがすごい」と話をされますが、私からすると王道のマーケティングをしている、でもそれがすごいとも思うんですよね。

足立 王道というか、教科書に書いてある通りのことなんです(笑)。

高広 教科書に書いてあるマーケティングを実直にやっているからこそすごいんです。

足立 先ほど私がファミマに入社し、どの顧客層に優先順位を置くかを決めて、訴求内容を変えたという話をしましたが、まさに「4P+C」で言うところのカスタマーとプロダクトを変えたんですよ。私はそこまでやるのが、マーケティングだと思っています。商品部がつくった商品をSNSなどにアップしていく作業だけなら、それはマーケティングではなく販促です。

高広 マーケティングの役割とプロモーションの役割の違いを、マネジメントチーム、現場、それぞれに説明するとどうですか。

足立 プロモーションはマーケティングの一部ですね。とはいえ、世間一般に理解されているマーケティングはプロモーションのことです。多くの会社でマーケティング部は宣伝部が名前を変えただけですから。それはそれでしょうがないけれども、私はマーケティングの教科書通り、必ずしも自分の部署の担当ではないかもしれないことにも、影響を与えてこそマーケティングだと思います。

特にコンビニは、商品部の影響力が強いです。だけど、そこに影響を及ぼさないと、お客さまが欲しいと思う商品が出てきませんよね。だから、「ああだこうだ」と言って割り入って、例えば「定番を強化しましょう」と言い続けて、商品部がつくる商品の方向性を変えていくこともマーケティングの仕事だと思っています。

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