カスタマーエンゲージメント研究会 #09Sponsored

【オルビス 小林琢磨・Repro 中澤伸也 対談】経営視点から見た顧客エンゲージメントとLTV向上とは

 

目標指標は、売上のLTVではなく限界利益のLTV

中澤 そういった取り組みを経て、戦略として一貫性を持ったアプローチをされていますが、お客さまとのエンゲージメントという面では、どのような変化が現れましたか。

小林 かなり大きな変革をしたので当然、得たものと失ったものの両方があります。

我われはブランドの提供価値を「スマートエイジング」と言語化し、最初の3年間は、商品を中心としたMD戦略を毎日行われるスキンケアに集約していきました。それに合わせてポイント制度を変えて、還元率を一気に下げました。

かつて総合通販をしていた時代は、プラスワンの購買でポイント還元率が上がる仕組みになっていたため、スキンケアに加えて、サプリや下着まで購入していたお客さまのLTVが一番高いという状態でした。しかし、当時は売上の最大24.4%も値引きをしていたため、売上は横ばいというジリ貧程度で、利益率は大きく落ちていました。
 
 
一方、ポイント制度を変更した後は下着を購入する人が減り、プラスワン購買でトップラインを支えていたお客さまの代わりに、スキンケアを中心としたお客さまのLTVが上がっていきました。だから、私が社長になった初年度は利益率が上がり、減収増益になっているんです。

中澤 なるほど。クロスセルで見かけ上のLTVを上げることから、オルビスのコア価値に対して共感を得ることでLTVを高めていく方向に軸足を移されたんですね。売上が一瞬落ちるから、かなり勇気のいることだったと思います。社内の反発もあったと思いますが、どのように理解を得ていったのでしょうか。

小林 私が最も大事にしたのは、LTVの限界利益です。顧客単価を大事にしてしまうと、以前のようにポイントをばら撒いて下着まで買ってもらえば、上がったように見えてしまいます。なので、限界利益を意識させることで、購入する商品の幅を広げてもらうのではなくスキンケアを中心に購入されたお客さまと関係を深めていくということを通して、LTVを上げていくようにしました。

中澤 いわゆる売上のLTVから、限界利益のLTVというふうに、会社としてキーゴールのインジケーターを変えたということなんですね。

小林 そうです。お恥ずかしいのは、500億円ほどの売上規模があるオルビスで、ユニットエコノミクスを見ていなかったということ。私はかつて社長を務めていたディセンシアで売上約50億円で営業利益10億円程度を出したのですが、そのときはユニットエコノミクスに命を懸けていました。

私は、実は大きな会社ほど、ユニットエコノミクスを見ていないのではないかと思っています。というのは、広告費などの先行投資に投じる予算がすでに決められていて、その枠内は使ってよいという発想で管理しているので、あえて目標CPOがなぜその金額なのかを考えることがなく、それがいつまでに回収できるのか、限界CPOをどこに求めるかを考えられていないのかなと。だから、オルビスではLTVの考え方を徹底的に叩き込みました。
 
 
中澤 たしかに、私も長くBtoCビジネスに携わってきましたが、残念ながらユニットエコノミクスの考え方を理解している経営陣は多くいませんでした。おそらく小林社長は顧客の獲得自体を投資だと考えているので、ユニットエコノミクスの考えでどれだけ回収できるかを見ている。でも、多くの経営陣は会社という枠のPLで考えるので、決算を前提に年間で区切って見てしまうんですよね。だからユニットエコノミクスの考え方と相容れないんです。

私はこの議論がすごく大事だと思っていて。今日の対談テーマはエンゲージメントですが、単に「エンゲージメント」という言葉を聞くと、どうしてもコミュニケーションの話になりがちなんです。ただ、結局は予算管理やLTVなど、組織が目標とすべき数字が変わらなければ、エンゲージメントを本気で考えられる状態にならず、組織の自発的な活動にも結びつかないと思っています。そういう意味で、限界利益でLTVを見ることやユニットエコノミクスで考えることを会社全体でできるようにしているオルビスさんは、LTVを中心とした経営が進んでいると感じました。

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