リテールアジェンダ2021レポート #03
ファミマ CMO 足立光氏が「マーケターは必要ない」と語る理由
高広 本来の教科書に書かれているようなマーケティングで、最終的には経営者に近い役割になるためには、キャリアの入口がマーケティング=プロモーションで始まった人たちは、どのようなスキルのつけ方、キャリアパスを踏めばいいんでしょうか。
足立 少なくとも営業は経験した方がいいですね。なぜかというと、最終的に社長や経営者になると、営業は切り離せないからです。営業を経験したことのない社長は、ほとんどいないと思います。4Pのなかでいうと営業=プレイスなので、それが理解できることは重要です。商品開発に関していえば、専門家がいるなら自分がやらなくてもいいかもしれない。
それから、お客さまの視点から語れることも重要です。4Pをこう動かしていこう、こう計画立てて実践していこうとすると、お客さまに喜んで頂けること、売上になること、がその方向性の主軸になります。結局、戦略やビジネスを考える基本は「3C」だと思っています。自分の会社の特徴とか強み「カンパニー」、競合の強み「コンペティター」、どんなことがお客さまに喜んで頂けるかの「コンシューマー」、この3つの組み合わせでしか戦略は決まらないと思っています。
ファミリーマートはもともと「20円引き!」のような、いわゆる「売価引き」の回数が他社より多いんです。あと、よく見れば分かるのですが、プライベートブランドも値付けが他社より若干安かったり、同じ値段でも量が多かったりします。だから、誰も知らないけれど、ファミリーマートはもともとちょっとお得なんです。
高広 覚えました? みなさん!
足立 いろいろやっている「売価引き」をそのまま訴求してあげるだけで、値引きなどに追加の投資をかけることなく、「ちょっとお得」だと訴求できます。競合他社は比較的高級路線なので、真似がしにくいのではと考えました。
新型コロナウイルスが要因で平均収入が落ちているということもあり、「ちょっとお得」を打ち出しているんです。ファミリーマートが強くて、かつ競合が実践しにくいので。
高広 営業経験のプレイスの話、コトラーのマーケティングマネージメントの4Pでは、対面セールスと書かれているんです。そこを理解せずに営業はマーケティングじゃないと分けちゃう。
足立 ドラッグストアで売っている商材は、どんな広告を出そうが何をしようが、いっぱい配荷があることが一番売上につながるわけです。ということは、小売で販売するようなマーケティングやビジネスで一番大事なことは、配荷と配置場所をとること。露出を増やすことですね。マーケティングとして考えなければいけないのは、いかにそれを伸ばすか、そのためには営業の仕組みを理解しないといけないと思います。
高広 大賛成です。マーケティングを勉強したいという人は、ただ教科書を読めばいいわけではないですね(笑)。
足立 ただ、私は新しいことは何もいってないし、昔から言われていること、マーケティングの教科書に書いてあるようなことを繰り返しているだけです。
「おトク」という訴求の話をしましたけれど、そのような戦略も昔からマイケル・ポーターの本に載っているわけですよ。さっきの「増量」だって、化粧品業界では当たり前に行われていることを、こちらの業界にもってきただけですしね。
高広 マーケティング業界の方たちは、新しい言葉が好きなんでしょうか。
足立 それで食べている人が、たくさんいるからじゃないですか(笑)。
高広 いろいろとマーケティングの話、ファミリーマートの話、キャリアの話を聞きましたが、マーケティング業界について忸怩(じくじ)たる思いがあるのではと思いますが、いかがですか。
足立 マーケティングという言葉の定義はそれぞれ異なりますが、私はそれでいいと思っているんです。販促の人がマーケティングをやっていますと言っても構わないし、みんなが同じ定義にしなきゃいけないとも思っていません。
ただ、マーケティングのどこか一部だけで何かを行うより、商品、価格、伝え方などをすべて俯瞰して考えて、全体を連動させながら実践していった方が、間違いなく成功する確率は上がります。「自分の部署はその権限がない」と、他部署のやることに影響を与えることをあきらめないでほしいです。権限はなくても、部署を横断して一生懸命に影響を及ぼしていくことができると、それによって、より成功する確率が上がってきます。