マーケティングアジェンダ東京2021外伝 #01

早稲田大学 長沢教授、ユナイテッドアローズ 藤原氏「ラグジュアリー戦略で消費者心理を支配する」逆張りのマーケティングとは

 

売るな→覚悟を決めろ

  
 15.売るな について、
×:売れ、顧客を逃すな
◯:売るな 売上高や顧客を失うことを覚悟せよ

 「売ることを諦めたら、売れる。」ラグジュアリーマーケティングの発想は、従来型のマスマーケティングとは違います。ことごとく逆にやるため受け入れ難いのです。

 印傳屋がGUCCIとコラボした案件がその例です。印傳屋は500年以上の歴史がある老舗でラグジュアリーになれる素質は元々ありました。だが、やらなかったのです。印傳屋がそれを目指さなかったから、覚悟を決めなかったから。

 以下がラグジュアリー戦略と従来の手法との違いがまとまった表になります。
  

  
 このように、従来のマーケティング手法と異なる手法になるため思い切りと短期的な成果を求めない覚悟が必要になります。
  

まとめ:高く売るにはどうしたらいいのか

   
 最後に、藤原氏から長沢教授に「モノを高く売るにはどうしたらいいのか?」という問いがありました。
 
モノを高く売るための価値作りは「こだわり」。
「こだわり」は「違い」を出す。
「こだわり」は「愛」から生まれる。
価値が高ければ、価格が高くても売れる。

ブランドは差別化。 自社のブランドはどこで市場に区別されているのか。 きちんと自社のブランドを語れるか。

 これは昨今のセミナーや本でも口を酸っぱく言われていることですよね。

 反面教師な事例として、日立のブランドメッセージを例に長沢教授がわかりやすくまとめている文章を引用し、掲載します。
 
日本企業はブランド戦略があまり上手とは言えません。例えば、日立製作所はグループのビジョンとして「インスパイア・ザ・ネクスト(Inspire the Next)」を掲げています。この言葉からは、未来を切り開く製品を次々と生み出すようなイメージを想起させます。しかし、あるとき社員の方に、「あなたの考える日立らしさとは何ですか」と尋ねてみると、「丈夫で長持ち、技術の日立」という答えが返ってきました。コーポレートビジョンとはだいぶ異なります。

そもそも、日立の創業者である小平浪平は、鉱山機械の修理工場に勤めており、当時は外国製の機械を使っていましたが、欧米と日本の地質は違うため、よく故障をしました。そこで、丈夫で長持ち、壊れない国産の機械をつくろうと、1910年に同社を創業しました。創業者の熱い想いが100年以上たっても社員に脈々と受け継がれているうえ、日立は今、社会インフラ事業にシフトしているので「丈夫で長持ち」というメッセージのほうがぴったりではないでしょうか。

 このセッションでは「売るな」と言っていますが、それはあくまでラグジュアリーを目指す上でのスタンスの話で、当然何が消費者にとって魅力なのかを明確にしなければそもそも全く売れません。

 ラグジュアリー戦略は自社の価値をしっかり消費者に受け入れる形で見出し、それを安売りせず、比較級や差別化で語らず、覚悟を決めて最上級であるというマーケティングすることで、きっとどのブランドでもできるところがあるはずです。

 人間理解のためには、まず自社の理解を、という重要な内容だったと思います。この考え方は、沖縄で開催された「マーケティングアジェンダ2021」のキーノートでも話された内容です。

 私自身、ラグジュアリー戦略をこうして聞くのがはじめてだったので大変興味深い話でした。他にもマーケティングアジェンダ東京2021の記事をまとめていきますので、ぜひご覧ください。
 
・キーノート#2  駒澤大学 青木茂樹教授、吉野家 伊東正明氏によるキーノート「SDGsをどうマーケティングに繋げるのか?」(近日公開)

・Repro&青山商事のOMO戦略推進から学ぶ『社内外一体型マーケティング推進』 #MA東京21(近日公開)

・キーノート#3 ドイツ銀行 ティム・アレキサンダー氏、Indeed Japan水島剛氏によるキーノート「Expanding the value of Marketing~拡張し続けるマーケティングの役割~」(近日公開)

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