マーケティングアジェンダ東京2021外伝 #02

駒澤大学 青木教授、吉野家 伊東氏SDGsは「買う理由」ではなく、「ないと買わない理由」になっている

前回の記事:
早稲田大学 長沢教授、ユナイテッドアローズ 藤原氏「ラグジュアリー戦略で消費者心理を支配する」逆張りのマーケティングとは
 キラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2021年12月9日と10日に行われたマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ東京2021」に参加しました。キーノートがとても参考になる内容でしたので、いちマーケターとしての見解を入れつつ全4回に渡りレポートします。

第2回目は、「SDGsをどうマーケティング活動に繋げるのか」というテーマのキーノートで、SDGsの第一人者である、駒澤大学 経営学部の青木茂樹教授がスピーカーとなり、聞き手は吉野家 常務取締役の伊東正明氏が務めました。

SDGsは自分には関係ない、もしくはスタイルとして取り組めばいいと思っている人が多いと思います。そういう人たちに気付きを与えるセッションでした。

SDGsの最新の動向、P&Gや吉野家のSDGsの活動を交えながら、SDGsのマーケティング活用と、人間理解というテーマにおけるSDGsの役割について話されたので、レポートとしてまとめました。
 

SDGsを実施するにあたって

 本題に入る前に、経験豊富な日本HP 経営企画本部 マーケティング推進部 部長の甲斐博一氏に会場で「SDGsを実施するにあたり、結局自己満足で終わらせないようにするにはどうしたらいいのか」という質問をさせていただきました。甲斐氏は、明確な答えとして
 
 「とにかくビジネスに紐づけること。SDGsの17項目の中にガバメントは存在しない。広報的なCSR的活動で終わらせることなく、ESG的な視点で実施し、結果SDGsになっているということが大事である」

 と述べていました。結局、継続的にビジネスに貢献できなければ担当者の自己満足だけになってしまいます。本編でも、まさにその視点に関して述べられ、継続的にビジネスに貢献するためのコツが満載のセッションでした。

 サステナビリティ、SDGs、ESGとさまざまな言葉があり、難しくて理解しにくいと思います。しっかりと理解してもらうために、簡単に定義を整理しました。
 
 ・サステナビリティは言葉の通り、持続可能性そのものを指します。
 ・SDGs/ESGはサステナビリティを、具体的な目標に落とし込んだものです。
 ・SDGsは、直訳すると「持続可能な開発目標」です。これは、国・地方団体、企業のすべてを含んだ地球環境存続のための最終目標です。SDGsで掲げる目標を経営戦略に組み込むことで、持続的に企業価値を向上させつつ地球問題を解決していくことです。
 ・ESGは環境、社会、ガバメントの観点でステークホルダー(顧客・取引先・株主・従業員など)へ配慮し日々の企業の事業活動を展開、結果としてSDGsの 達成に貢献できるということです。

 それでは、本編に入ります。
 

【整理】サステナビリティの「5forces(5つの圧力)」とサステナビリティ・ブランディング

 まず、サステナビリティには5forces (5つの圧力)があると青木教授はまとめていました。



 <5forcesの説明>
 1.国際基準/ステークホルダーとの関係性でやらないといけないこと
 2.金融機関、投資家へのESG投資への対応
 3.サプライチェーン(モノの確保)/従業員(大義・存在意義)への対応
 4.顧客/取引先からの期待、もしくは不満
 5.真ん中:企業間競争


 サステナビリティは、企業が率先的にやるわけではなく、このような半強制的に、必要に迫られて実施するケースが多いわけです。逆に、サステナビリティ経営に取り組んでいないということは、その危機感を感じられていないということになります。

 5つの圧力のなかでどれも重要さは変わらないですが、「実際は4の顧客・取引先に対してサステナブルの価値を伝えることが一番難しい」と青木教授は付け加えます。そのため企業の自己満足で終わり、ビジネスに紐づけることの難易度が高くなります。特に1と2の項目は、ESG文脈が強いとも言えます。

 続いて、【サステナブル・ブランディングの構図】が青木教授から説明されました。一見、難しく見えますが分解すると非常にわかりやすい考え方になっています。



 サステナブル・ブランディングは、「ビジネスと社会課題解決を両立させ、『らしさ』で競争優位を創り出す」ということ、言い換えると現代では企業ブランディングの向上はサステナビリティが戦略の芯になるということです。

 その概念を因数分解して整理したのが、以下です。
 
 ①    外周のオレンジ部分:外部環境。温暖化や脱プラスチックなどの問題、国際的な制度、経営思想などで、取り組まねばならない理由の整理。

 ②    中心の青部分:パーパスに基づき、各対象のエンゲージメントを高める施策(従業員、消費者、投資家、サプライヤーへの各施策)。

 ③    緑:企業としてどういう考え方・標準が必要かの整理。
 →De Jure Standard:法律、やらねばならないこと「法的標準」
 →De Facto Standard:市場・慣習をつくる「事実上の標準」
 →De Spiritus Standard:社員に規矩(基本概念)を浸透させる「精神的標準」

 特にこの構図の中で「③の各標準をつくる」ところがサステナブルな上で重要です。これがないと、施策に方向性がなく、ビジネスにも紐づかなくなってしまいます。

 De Spiritus Standardの例として、良品計画が挙げられます。良品計画では、精神的標準を明確に定めていて、これがブランドそのものを形作っています。ミニマリズムを信奉するジョブスが作ったiPhoneも最たる例です。



 いきなり議論を深める前から「SDGsの17のゴールのうち○○番に取り組む」と決めることはやめて、しっかりと整理をした上で企業としてどこから取り組むべきか落とし込まなければ、一過性の「担当者の趣味」として終わってしまうことになるでしょう。

 もちろんSDGsのゴールはわかりやすいので、考え方を整理することに使い、最終の目標としてSDGsの○○番に取り組むというのはもちろん必要です。

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