マーケティングアジェンダ東京2021外伝 #02

駒澤大学 青木教授、吉野家 伊東氏SDGsは「買う理由」ではなく、「ないと買わない理由」になっている

 

【実践事例】SDGsを継続的な企業活用に落とし込んだP&Gと吉野家の事例

 次に、伊東氏から具体的な事例として、車用ファブリーズの例が話されました。



 発売当初、車用ファブリーズは、車内に匂いがあるときには少し我慢して窓を開ければいいため、基本的には必要とされにくいものでした。そのため、欲しくなったときにすぐ買えるようにしなければならなかったので、ドラッグストアの店頭の見やすい位置に置くように動きましたが、なかなかレジ前に置かれなかったということです。

 そこで、リサイクルプラットフォームを運営するテラサイクル社と連携し「ファブリーズでリサイクル」というサステナブルの文脈で、オートバックスの店舗入口すぐの場所にファブリーズの改修箱を置くようにしました。オートバックスとしても企業価値を高めるキャンペーンであったため、レジ横の顧客から見えるいい場所に置いてもらえるようになったのです。

 オートバックスのWin、ファブリーズのWin、顧客のWinの混ざるところを狙い、結果としてファブリーズ車用の利用はかなり多くなりました。プロモーションの「アイデア」によってSDGsがビジネスに紐づいた好事例です。

 次に、伊東氏から吉野家の事例が話されました。



 吉野家は「うまさ」「やすさ」が大事な取り柄です。多く煮過ぎて余ったものはロスになり、ROIが悪くなるとどんどん旨味が溶けておいしくなくなります。つまり、無駄をなくすと「やすく」、「おいしく」なり、自然とフードロスの解決になるといいます。SDGs的にいうと8~10%のフードロスが業界平均ですが、吉野家は1%という数値を当たり前のように達成しています。

 「企業にとって継続できないことはやっても意味がない。SDGsの活動が、企業活動の中の当たり前になってないと意味がない」
 この言葉が見事に実践されている事例でした。

 また、吉野家では子どもの7人に1人が貧困状態にある日本の現実問題解消の一翼を担う目的で子ども食堂への食料提供をしています。検討当初は一社で実現することは継続が難しいと判断していました。しかし、30社の協力を得られれば継続的できると考え、各企業や自治体と連携し実施に至りました。

 結果、沖縄では30箇所以上に子ども食堂を増やし継続的に提供できています。さらに、実際に提供している風景を社員に見せることにより、De Spiritus Standard(意識)を高め、モチベーティブに続けられるモデルを作りました。
 

【市場】サステナビリティに別のバリューを加えて価値を創造

 青木教授から、サスティナビリティに対して消費者行動がどうなっているかのデータの事例として、気候変動問題に配慮する商品のアンケートをメンバーズと取った結果の説明がありました。簡単にまとめると、

 ・6~7割は地球温暖化問題に取り組む企業の商品やサービスを積極的に購入したいと思う
 ・実際に購入したのは2~3割
 ・ファッションは一度買うと9割は継続意向、友だちにも4割話す
 7割の消費者はサステナビリティに関心がありますが、実際に購入に至るのは3割程度です。この4割の差分は、マーケティングの問題であると青木教授は言います。

 〈マーケティング課題〉
 ・売り場がない、価格が高い
 ・情緒的価値(持ちたくなる意味)が訴求できていない
 ・サステナビリティ価値(全員にいいという意味)が訴求できていない
 この問題を解決するために「cross value」によって、これらのマーケティング課題を解決している事例が挙げられました。

 adidasはNGO Parleyと連携し、デザインや機能をレベルアップさせ、価格の妥当性を演出しました。



 それは、海洋プラスチックのリサイクル素材から作られた「Adidas Parley UltraBOOST DNA」スニーカーで、実際に購入した一部を寄付する仕組みもあります。

 この事例は、以下のように因数分解しています。



 また、日本環境設計のBringはゴミ問題などに対応しつつ、デザイナーともコラボしたプロダクトを提供しています。



 とてもオシャレなデザインで、着ていると自分が好きになりそうだと感じました。まさに2つの事例ともにcross valueですよね。

 サステナブルのマーケティングは三面鏡。選ばれない理由にならないことが大事で、サステナブルでないと「買われない理由」になってしまう。

 「前から横から単なるデザインを見られるだけではなく、横から後ろから裏に隠された物語まで見られるようになり、社会の目が買い手と売り手を「この人、adidasのParley履いてるから、サステナブルに興味あるんだな」と見るようになります。
 と青木教授は続けます。


 
 サステナビリティで大事なことは「買う理由」になるのではなく、「買わない理由」に選ばれないことです。それくらい、いまやサステナビリティはブランド価値に影響を及ぼしていることに気づかなければなりません。

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