マーケティングアジェンダ東京2021外伝 #04

「人事部もマーケティングの傘下に」ドイツ銀行 CMOが語る拡張し続けるマーケティングの役割

前回の記事:
青山商事とReproのOMO戦略から学ぶ「社内外一体型マーケティング推進」 が必要な理由
 キラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2021年12月9日と10日に行われたマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ東京2021」に参加しました。キーノートがとても参考になる内容でしたので、いちマーケターとしての見解を入れつつ全4回に渡りレポートします。

 最終回は、ドイツ銀行CMO/CXOのティム・アレキサンダー氏とIndeed Japan Marketing Directorの水島剛氏が登壇したキーノートです(これまでのレポートはこちらからご覧ください)。

 ティム氏は、ドイツ銀行のCMOに就任すると、すぐに人事部をマーケティング本部傘下に置き、採用や人材配置を管轄下にしたそうです。また、いまはCMO/CXOという2つの肩書きを持ち、人間理解というテーマにおいて従業員への働きかけがとても重要であることを実践するなど、大変に興味深い内容でした。

 後述の内容をあえて先に書きますが、「マーケターは自社のサービスの魅力がどこにあり、顧客が何にストレスを抱えているのかが一番わかる立場にある。だからこそ、社内のあらゆる部門、社員にそれを伝え、顧客・マーケティング視点を企業の文化とする義務がある」というティム氏のメッセージがとても重要だと考えています。
 

はじめに:ティム氏からのメッセージ

 冒頭10分ほど、ティム氏からメッセージということでビデオメッセージが流されました。この後のインタビューに関連する大事な内容のため、簡単にまとめます。
 
ティム・アレキサンダー
ドイツ銀行
CMO/CXO
 (1)    パンデミックなどで不確かな混乱の時代
 顧客は、もちろん生身の人間です。内心ではパンデミックによる不確かな状況に背を向けたいと思っているが、一方で人としての本能があるので、外向きには違った感情が存在していることを理解しましょう。

 (2)    ルールを破ればブランドと消費者の関係は閉じる
 顧客は「ブランド」を自ら選定するようになり、プロモーションによる認知だけではなく、すべてのタッチポイントで良い体験を提供することが必要になっています。つまり「顧客体験のデザイン」が必須。そのため、競合他社よりも優位であることを伝えるために、顧客ごとのステータスをデータで徹底管理し、チャネルの統合によって顧客へのフィードバックがリアルタイムにかつ抜け漏れなくできるようにしなければならない。

 (3) あなたが何かを変えたいと思っているなら、内部から変化を起こさないといけない。従業員中心主義=顧客中心主義
 いいサービスを提供するには、顧客の痛みを同じように知る必要があります。そのためには、社員が自社のサービスを愛し、自分で課題を見つけ、自分で意思決定し、自分で改善するという自己完結できる組織になる必要があります。

 つまり、従業員中心主義がなければ、顧客中心主義にはならないのです。従業員一人ひとりに対して揺れがない、タフな愛が必要です。社内コミュニティ、社内代表委員会の運用などを徹底し、社員同士で自社愛を高め合い、顧客視点を養っていきましょう。そして、従業員が企業のインフルエンサーにならなければならないのです。

 (4) 結果的にNPSが高まり、愛される企業になる
 ドイツ銀行では(1)~(3)を行った結果、市場におけるブランドの信頼度、親しみやすさなどのスコアが高まり、NPS(推奨度)も-4ptから+20ptまで大幅に増加しました。

 ビデオの後は、水島氏によるティム氏へのインタビューが行われました。この後からは、そこで深掘りされた内容を5つのパートに分けてまとめます。  
 

① CXOという役割がなぜ必要なのか・・・未来は「エクスペリエンス(体験)」の中にある

 先に、「ドイツ銀行でティム氏はなぜCXOという役割を作っているのか」に迫ります。この内容だけでも興味深い内容です。
 
水島剛
Indeed Japan
Marketing Director
  先に「ドイツ銀行でティム氏はなぜCXOという役割をつくったのか」に迫ります。これだけでも興味深い内容です。

 CMOは戦略、コミュニケーション、広告など、会社を実際に動かすマーケティング機能を担っています。一方、CXOは製品やサービスに触れた後に顧客がどのように感じるかという経験に関するまったく新しい分野で、この経験や顧客の気持ちをデザインする役割です。

 ティム氏は5年前からドイツ銀行にいますが、CXOは新しい役割として追加されました。 もう従来のマーケティングだけでは十分ではないし、広告も以前のように充分には機能していません。

 マーケターの皆さんに伝えたいのは、未来は「エクスペリエンス(体験)」の中にあるということです。「ドイツ銀行では、マーケティングの役割は、エクスペリエンス(体験)に発展させなければならないと理解しています」(ティム氏)。

 私なりに「顧客接点の総最適化」と表現させていただきますが、それぞれの部署が縦割りに動いて、企業としての考えも顧客の対応も異なってしまいがちです。実際ドイツ銀行でも、ティム氏が来る前は各部が別々の思想で動いていたそうです。この「部署を超えた会社として一貫性のある交流」を徹底することが一番大切だと理解し、ダイナミックにできるようにしたのがCXOということでした。

 実際、水島さんからの「CMO/CXOとして、具体的にどのような活動をされていますか」という問いに対して、エクスペリエンスを中心とした施策をお話しされていました。

 まずはクレームマネジメントから始め、そして顧客から学び、洞察力を得て、一緒になってより良い体験をデザインするのだそうです。

 たとえば、「電話をかけたときに長く待たされた」と顧客からフィードバックをいただいたら、それを元にすべての場所でより良い体験ができるように人、コンピュータもより良い設計にします。つまり、顧客がどのように感じているかということがすべての仕事になるのです。「フラストレーション(痛みのポイント)から、全体の体験をより良くすることが私の領域ですね」と語ります。

 CXOとしての業務範囲は、コールセンターや店舗など、とにかく接客をしている全てが範囲です。特に顧客と直接的に接点を持つ箇所を最優先で最適化していることがよくわかります。

 そしてCXOという顧客体験をミッションとした立場をあえてつくることで、ドイツ銀行としての決意を示し、スピード感のある最適化を実現したのです。

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