人間理解・インサイト実践アカデミー #01
なぜマーケティングに人間理解が必要なのか? 【富永朋信氏×鹿毛康司氏 スペシャル対談】
2022/06/22
顧客データだけでは辿り着くことができない人間観察
富永 マーケティングで用いられる多くの概念や考え方の中で、私が重要だと考えているものに、ポジショニングがあります。ポジショニングを考えるときに非常に有用なフレームワークとして、POP(Point of Parity)とPOD(Point of Difference)があります。それぞれ簡単に説明をすると、商品やサービスが競合と比較されるときに、最低限この要素がないと競合と同じ土俵に乗れないという必要条件がPOPです。一方でPOPを満たした上で、差別性となる部分がPODになります。
こう聞くと、「そんなの自明のことだ」と思われて、現在行っている施策やその元となっている戦略をベースにPOPとPODを言語化したら、自社のポジショニングがわかったような気になりませんか? でも、そこに落とし穴があります。
たとえば、私が以前勤めていたドミノ・ピザのPOPを考えた場合、一般的に同業他社と考えられる宅配ピザ業者、つまりピザーラやピザハットと比較したくなります。しかし顧客はコンビニエンスストアにいく代わりに、ピザを頼んでいるのかもしれません。その場合は、宅配ピザ業者とは違うPOPとPODを考える必要があります。つまり、競合の範囲をどこに設定するかによって、全く異なるPOPとPODを考える必要があります。
鹿毛 そうですね。ポジショニングは重要ですが、一旦決めた戦略を闇雲に実施すれば良いというわけではないですよね。実際、顧客の購入意図により、同じ商品であっても異なるポジショニングで売れているようなことはザラにあります。一人ひとりの顧客がなぜ自社の商品・サービスを使ってくれるのか、を精緻に議論する必要があるんです。
富永 マーケターは自社の商品・サービスの近くにいるので、それを一番よく知っているという自信を持ちがちです。でも真に重要なことは自社商品が顧客にとって、何と比べられるかであり、その上でなぜ選ばれるか、という顧客と商品の関係性なのです。
人間はともすると、自分に見えている範囲を基準にして普遍化しがちな生き物です。マーケターは、自分の見えている範囲だけでポジショニングをつくり、当てはめて判断し、満足していないかと振り返ってほしいです。このためには、ポジショニングのフレームワークをただ援用するのではなく、なぜ人間である顧客へのマーケティング施策にポジショニングが大切なのか、その背景を理解する必要がありますよね。
鹿毛 例えば、男性が「ある女性にモテたい」と思ったときに、自分のPOPやPODを考えて研究し、理解して、相手にアピールしようとしたら噴飯物ですよね。自分のことばかり考えている人は絶対にモテないんです(笑)。本当にモテたいと思ったら、相手のことを理解しないといけません。
相手がどんな行動をとって、どんな感情を持っているのか、時系列で細かく見ていくと相手も気づいていないインサイトがたくさん出てくるでしょう。そのため、データ分析だけでは決して辿り着けない、人間の脳でしか処理できないことが人間観察なんですよ。
※後編に続く
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