マーケティングアジェンダ2022 レポート #01
元ユニ・チャーム・木村幸広氏が語る、インドで見つけた消費者の「自我」と「3人の消費者」とは【マーケティングアジェンダ2022レポート第1回】
2022/08/04
マーケターが常に意識しなければならない「消費者視点」は、売上や利益を追求する中でつい数字を追うことばかりに集中し、見落としがちになってしまう。そうした中で、どうすれば消費者を正確に捉えることができるのか。元ユニ・チャーム グローバル・マーケティング・オフィサーの木村幸広氏をスピーカーに迎え、コアラスリープジャパン マーケティングディレクターの尾澤恭子氏がモデレーターを務めた「マーケティングアジェンダ2022」のキーノート「消費者の『??』を追求せよ~消費者視点って何をみていますか?~」をレポートします。
売上や利益だけではなく、問題の本質を徹底的を捉える
木村 まず、簡単に自己紹介をします。私は39年間ユニ・チャームに在籍し、1990年からマーケティングを担当してきました。タイやインドへの現地赴任を経験し、特にインドでは、会社登記など事業の立ち上げにゼロから関わりました。帰国後は、グローバルマーケティング本部で、海外を含む全社のマーケティングに携わり、2022年2月に卒業しました。
現在は木村グローバルマーケティングという自分の会社で日本企業の海外進出のお手伝いをしたり、シンガポールに本社を置き、動物の健康を守るサービスを展開するアルダという会社のCMOを務めたりしています。今日はユニ・チャーム時代の話をベースに「消費者の??とは」という議題について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
最初に、私がとても大事にしている考え方を3つ紹介します。ひとつ目は、「まず1人で考える、ただし、1人では考えない」です。最近、特に若い人と仕事をして感じるのは、すぐに「答えを求めようとする」傾向です。「どうですか?」と質問しても、自分の考えを話すことができず、「まずは1人で徹底的に考えましたか?」とツッコみたくなります。
その一方で「絶対に1人で考えるな」とも言います。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、徹底的に考えた後に人の意見を聞きながら、一度自分の考えを壊す勇気を持つことが重要なのです。これが消費者を理解していく上で必要だと思います。
アルダ株式会社 CMO(元ユニ・チャーム 常務執行役員 グローバルマーケティングコミュニケーション本部長)
木村 幸広氏
尾澤 なるほど。マーケティング視点で考えると、仮説を持った後に人の意見を聞いて、検証していくということですね。
木村 はい。2つ目の考え方は、競合が何か新しいことを仕掛けたときに、表面的に真似するのではなく、その裏にある消費者の変化や新しい気づきを捉えることです。例えば、競合が値下げしたからといって、すぐに自分たちも追随するのではなく、それを本当に消費者が望んでいたのか、その値下げをした背景には消費者にどのような変化があったのかを、深く考える必要があるんです。
3つ目は、「売上が!利益が!問題と課題を意識的に区別する」と、数字だけを求めてしまう時に意識的に問題と課題を区別して考えることを私自身は行なっています。
尾澤 社内でセールスディレクターを担っていている立場としては、とても耳が痛い話です。売上を気にして、ついセールなどに走りがちですが、「売上が!利益が!」と結果を求めることがダメとなると、どうしていいのかわからなくなってしまいそうです。
コアラスリープジャパン マーケティングディレクター
尾澤 恭子氏
木村 そうですよね。例えば、売上が厳しいとき、数字を優先してしまい「売上を上げるために」という、手段と目的が混沌としてしまうケースをよく目にします。
私はこのケースに対して「売上とは結局、お客さまの数のことですよね。それがなぜ増えてないのか?を考えてみたらどうですか。一方で利益とは、お客さまの満足度ですよね。我々が提供しているサービスに対して、お客さまが満足してくれていないから利益が下がっているんですよね」と話します。そこから「なぜ人数が増えないのか? なぜ満足してもらえないのか?」と考えると、企業側ではなくお客さま側の視点まで落として考えることができると思います。
しかし、多くのマーケターは、燃えている火に水をかけるように、問題となる事象をそのまま表面的に捉えて解決策を探してしまいます。そうではなく「この問題を解決するためのスイッチは何ですか?」という課題の本質を特定することに意識を向けることが重要だと考えます。