マーケティングアジェンダ2022 レポート #01

元ユニ・チャーム・木村幸広氏が語る、インドで見つけた消費者の「自我」と「3人の消費者」とは【マーケティングアジェンダ2022レポート第1回】

 

「ライフリーリハビリパンツ」が掘り起こした消費者の内面的価値


木村 もうひとつポイントをあげると、「消費者の変えられるところと、変えられないところを区別する」ことです。私はお客さまの心をしっかり掴むことができれば、「意外と変えられるところが多い」と考えています。同時に、マーケティングは「Market+ing」ですから、常にマーケットを作り続ける発想が大事だと考えます。消費者を変えた例として、ユニ・チャームが95年に発売したライフリーリハビリパンツの話を紹介しましょう。

紙おむつには、「履かせるパンツタイプ」と「テープで付けるタイプ」の2種類があり、今回は履かせるパンツタイプの商品の話です。履かせるパンツタイプの紙おむつをシニア層に売り出そうと社内で、いろんな議論を経て出来上がったのが、「寝たきりゼロを目指して」というコンセプトでした。「このオムツの中で排出をしないで、トイレに行きましょう」というリハビリパンツとして売り出したわけです。おむつメーカーが「このおむつを使わないでください」と言うのって不思議ですよね。

実は日本は、寝たきりの高齢者が多い世界有数の国なんです。寝かせきりにしてしまうと、運動能力をものすごく下げてしまいます。それ以上に深刻な問題は、紙おむつを1人で履けないので、オムツを替えてもらうために誰かのサポートが必要になるのです。

つまり、奥さんや娘さんに排泄物や性器を見せないといけない。これは誰でも嫌ですよね。実は、それが本質なんですね。例え、身内であっても、自分の排泄物や性器を誰かに見せるという経験をすると、生きる勇気を失ってしまうんです。

そうならないためにも、このライフリーリハビリパンツを通じて、「リハビリテーションをしてください。いざというときは、この中で排泄物を受けられるので、安心してトイレに歩いてください」というメッセージを発信したんですね。もしパンツ型の履きやすいオムツで売り出していたら、そこまで売れなかったかもしれないと今でも思います。

尾澤 鳥肌が立つ、素晴らしい話だと思いました。使っている方やそれを支援する方を見る中で、最終的に「寝たきりにはなりたくない」という本人の「自我」に着目する。その上で「あえてパンツ型を出しましょう」というのは、もしかしたら売上が減るかもしれない、会社としても大きな意思決定だったと思います。そのような大きな決断ができたのは、それを許容する組織の文化があったからですか?

木村 本質は、やっぱりお客さまにとって一番喜んでもらいたということですね。最終的にはユニ・チャームの高原豪久社長が「絶対に消費者のためになるから、リハビリパンツとして出すべきだ」と強く発信されました。

尾澤 なるほど、皆さんが「何をするか」よりも「なぜやるか」に愚直にコミットして進めていった結果なんですね。
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