ネプラス・ユー大阪外伝 #01

マーケティングの民主化による「変わるもの、変わらないもの」 【ネプラス・ユー大阪2022レポート外伝 第1回】

  オンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」を運営するキラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2022年7月21日と22日に行われたマーケティング・カンファレンス「ネプラス・ユー大阪」に参加しました。今回もキーノートや公式セッションが、とても参考になる内容でしたので、いちマーケターとしての見解を入れつつ、いくつかのセッションをレポートします。今回は、誰もがマーケティングをできるようになった状態や、価値の共創など「マーケティングの民主化」について語られた最初のセッションを紹介します。
 

「変わるもの、変わらないもの ~そして変えるもの、変えないもの~」というテーマでキーノートがスタート


 2022年5月に開催された「マーケティングアジェンダ2022」のテーマは「So what?」でした。目の前の仕事はもちろん、社会で起きている出来ごとを「自分ごと」化し、日々起こる事象に対し、「それはどういうこと?」「お客さんにとって本当に大事なこと?」と問う思考習慣を身につけようという内容でした。

 それを踏まえて開催された「ネプラス・ユー大阪」では、「変わるもの、変わらないもの~そして、変えるもの、変えないもの~」と題して、「マーケティングアジェンダ」で表面化した課題をより具体的に整理・実践していくという狙いがありました。



 過去・現在・未来という時間軸から「変わるもの」「変わらないもの」を紐解き、マーケティング・クリエイティブ・テクノロジーの観点から「変えていかなければならないこと」「変える必要がないこと」を導き出していくというヒントが満載のカンファレンスでした。

 今回のレポートは、オープニングキーノート「マーケティングの民主化、これまでとこれから」というテーマのセッションです。スケダチ 代表の高広伯彦氏、ノバセル 代表取締役社長の田部正樹氏、ベストインクラスプロデューサーズ 代表取締役社長の菅恭一氏という豪華メンバーが登壇者でした。

 大企業に所属していて、かつスキル・ノウハウがある人間しか専門的なマーケティングができないという時代は終わりました。今回のカンファレンスのテーマを自分ごと化する上で、今一度認識しておかなければならない内容です。それでは、本編を紹介していきましょう。
 

マーケティングの民主化における、変えるもの、変えないものとは


 このテーマを初めて聞いたときは、アカデミックで難しいと感じましたが、高広氏と田部氏が噛み砕きながら、非常にわかりやすい言葉で説明していたので、初参加の人にも理解しやすい良質なセッションでした。まず最初に、高広氏から「マーケティングの民主化」について、大きく2つに分けられるという説明がありました。



(1)<事業主・ベンダー視点の民主化>実践・方法論・手法の民主化
(2)<顧客視点の民主化>参加者の多様化・顧客の支持がマーケティングの源泉に


このように「マーケティングの民主化」にはこの2つの視点があるとのことです。本セッションでは、この2つの「マーケティングの民主化」について、それぞれの紐解かれていきました。
 

(1)実践・方法論・手法の民主化に関して~暗黙知が一般化される時代になった~


 まず、ひとつ目の内容を田部氏が説明します。簡単に言うと「これまで経験が無い、リテラシーが低い会社や担当者の方でもマーケティング施策が実施しやすくなっている」ということです。続けて、「情報の非対称化を生んでしまったサプライチェーンの複雑化(分業化、縦割り化)」によって、マーケティング担当者に次のような課題が生まれていると指摘します。
 
  • 誰に頼ればいいか分からない
  • 見積もりが適正か分からない
  • 施策の良し悪しの判断材料がない
  • 経験がないため、本来不要であるやりとりが多くなる
  • 自社で効果の把握ができない

 実際、こういった課題に直面している人は、まだまだ多いのではないでしょうか。
   
ノバセル 代表取締役社長
田部 正樹氏

 高広氏からは、2000年代後半にGoogleに在籍をしていた経験から「大きな広告予算を持たない中小企業や個人事業主であっても“広告主”になるというのは、Googleの検索連動型広告が始まった頃がそのスタート地点ではないかと考えている。あまり知られていないが、2007年~2009年頃にGoogleは、検索連動型広告しかやっていないような広告主から大きな広告主まで、いろんな規模の企業が、テレビCMやラジオCM、新聞・雑誌広告といったオフライン広告をAdWordsの管理画面で購入できる仕組みというものを準備していた。AdWords for TVだとか、AdWords for Printと言ったものだ。しかも、それらをGoogle Analyticsと組み合わせ、オフライン広告の効果を見ることができるところまでベータ版の開発はできていた。そう考えると、やはり“マーケティングの民主化”を当時のGoogleは手掛けていたと思う。」と語ります。

 検索連動型広告で出稿している内容や成果をもとに、広告主が自由自在にいろいろなメディアを組み合わせて出稿できるという構想があったようです。テレビ局や新聞社といった、媒体社取引口座を新規に開設をするのはハードルも高いと言われています。ネットの広告のハードルの低さに比べ、ビジネス監修や担当者のプランニングスキルが重要となるマスメディアへの広告出稿は、会社や担当者にコネクションやノウハウ、コストがないと出稿できなかった。しかし、田部氏のいう「マーケティングの民主化」の構想が、10数年前のGoogleではあったそうです。

 結局AdWordsのオフライン広告版は正式なサービスとして実現されませんでしたが、近しい試みが、市場全体では少しずつ実現に向けて進んでいるように思います。現在ではテレビCMを1枠から買えるようになったほか、さまざまな広告メニューを安価に企画・実践・検証まで気軽にできるソリューションがたくさん生まれています。Googleが世に普及させようとして実現できなかったサービスが、部分的であれ、今現在、国内の事業者が世に出してきています。つまり本格的に、1つ目の「マーケティングの民主化」が実現されてきているのです。

 しかし、これまでマスメディアを中心にした広告の世界では、なぜ「マーケティングの民主化」が実現できなかったのでしょうか。技術的な側面以外にも課題があったとして、高広氏は以下の3つを挙げます。
 
  • 予算のサイズ
    例えばテレビCMをやろうすると大きな予算が必要だったので中小企業は実施するのが難しかった
  • キャッシュインまでの時間
    投下した広告費に対して、その効果によって売上や利益が上がったと実感できるまでの時間が長く、特にブランディングに関するキャンペーンでは短期で効果を実感しにくい。
    ・そのため、広告費の支払いタイミングと広告の効果の結果として物が売れるなどのキャッシュインのタイミングが大幅にずれることがある
  • 販促思考のデジタル広告化
    ・「広告」と「販促」の違いは、後者の方がより営業だとか、売りに近い。従来の広告に比べてデジタル広告は、売りに近いところで活用される。そのため「広告」というよりも「販促」に近く、使ったお金に対するリターン、例えば前述したようなキャッシュインが相対的に早い。

 続いて、田部氏は、これらの民主化の流れは、中小企業やスタートアップ企業にとっての利便性だけでなく、大手企業においてもマーケティング予算が十分に確保できない新規事業の立ち上げや、事業部内のPLで宣伝活動も回していくトレンドからみても、機会になるだろうと付け加えました。実際にノバセルは、テレビCMを安価に出稿でき、効果を測ることができます。

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