ネプラス・ユー大阪外伝 #03
「変わらないために自らを変える」 広告界の巨匠 杉山恒太郎氏が語るクリエイティブの役割【ネプラス・ユー大阪2022レポート外伝 第3回】
オンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」を運営するキラメックスでマーケティングを担当している福田保範です。2022年7月21日と22日に行われたマーケティング・カンファレンス「ネプラス・ユー大阪」に参加しました。今回は、そのレポートの第3弾として「歴史は繰り返すのか~レジェンドから紐解く『人の感情の機微を描く』とは? 」というタイトルで、前回の記事に引き続きマーケティングとクリエイティブの関係性について深掘りしたセッションを紹介します。
広告界の巨匠でレジェンドとも呼べるライトパブリシティ 代表取締役社長の杉山恒太郎氏と、ワコールホールディングス 未来事業開発室の猪熊敏博氏が登壇者でした。杉山氏は電通時代に小学館「ピッカピカの一年生」、セブン-イレブン「セブンイレブンいい気分」など、多くの人の記憶に残るテレビCMをつくり続けてきました。過去の作品を振り返りながら、クリエイティブの未来について探りました。
広告界の巨匠でレジェンドとも呼べるライトパブリシティ 代表取締役社長の杉山恒太郎氏と、ワコールホールディングス 未来事業開発室の猪熊敏博氏が登壇者でした。杉山氏は電通時代に小学館「ピッカピカの一年生」、セブン-イレブン「セブンイレブンいい気分」など、多くの人の記憶に残るテレビCMをつくり続けてきました。過去の作品を振り返りながら、クリエイティブの未来について探りました。
インサイトを見つけない限り、面白く、響くクリエイティブはできない
今見ても驚きを感じるサントリー「サントリーローヤル」シリーズ、小学館「ピッカピカの一年生」キャンペーンなど、杉山さんの過去のテレビCMを振り返りながら、クリエイティブの本質が語られました。
杉山 恒太郎氏
杉山氏は、「技術が進化し、産業構造が変われば、人の行動・感受性(パーセプション)も変わり、生活様式もガラッと変わります。クリエイティブは、人の感情の捉えごっこです。インサイトは洞察であり、それを見つけない限りは面白い広告クリエイティブはできません。エンパシーを呼び起こすのはユニークなインサイトなのです」と語りました。
さらに「そこで必要なのが、アート&サイエンスです。 How To Sayはアート(個人の独断と偏見)の方が強く、ここではサイエンスは向きません。一定のサイエンスでハズレを無くしつつ、跳躍をアートで狙うようにします」と続けます。これは、もうひとつのクリエイティブセッションで登壇したワトソン・クリックの山崎氏も同じことを話していました。今も昔も「アート&サイエンス」が重要であり、そこは変わらないことが分かります。
インサイトの発掘は、デコムの大松氏を筆頭にマーケティングにおける必須なプロセスだと理解しているマーケターが多いと思います。杉山氏の言葉からクリエイティブ制作という側面でも、インサイトが重要なポイントであると改めて理解できます。マーケティングの過程においてバリュープロポジション(提供価値)を築くことができても、最後の響くクリエイティブやプロモーションで伝えることができないと意味がありません。
ブランドは自己発想でつくるもの、マーケティングはどんな企てであるべきか
そして杉山氏はブランドとマーケティングの違いについて「分析では、昨日までのことしか分かりません。施策の検証やインサイトの確かさを調べるためにマーケティングは重要ですが、明日をつくることはできません。他人の意見を聞いてアイデアを考えても、それは既成の考えでしかないんです。マーケティングは企てることで1を10や100にできる可能性があるもので、ブランディングは自分発想で0を1にする話です。そこを見誤ってはいけません」と語りました。
この言葉を聞いたときに私が「はっ」と思わされたのが以下の2点です。
・ブランディングは、マーケティングだけではできないこと
・消費者に響かせるという目標を達成するためには、クリエイティブの跳躍が必要であること
ご覧になっている方も、いつのまにか、マーケティングが最重要だと考えがちではなかったでしょうか。ユーザーに刺さらない=売上が上がらない、SNSのつぶやきが増えない、リードが増えないものは悪である。つまり、「人を数値でしか見なくなってしまっている」ことに気づきました。また、ブランディングは市場で勝てる場所を探した延長線上にあるのではなく、そもそも企業が目指す姿があってこそ、0から1の自己発想が起点です。日々、マーケティング業務に携わっているみなさんも、このように考えてしまっている人が多いのではないでしょうか。
猪熊 敏博氏
また、「面白い広告=バズる」などクリエイターの自己満足といった発想にもなりがちです。しかし、結局は消費者にとって刺さる(本能や右脳を突き動かす)内容でなければ、結果に結びつくことはありません。ここは山崎さんのセッションでも語られています。
「それは認知向け広告の話で、獲得向けの話ではないから、関係ないでしょ?」という考えも捨てた方がいいのでは、と考えます。なぜなら、バナー広告をひとつ例としてあげても、そうあるべきだからです。オープニングキーノートでも語られたように、マーケティングは企業と顧客の双方向を伴うものであり、価値のある商品やサービスを伝達し、交換する活動やプロセスでなければなりません。そのため、マーケティングは単なる企業視点であってはいけません。消費者と企業をつなぐ橋をつくるような、役割でなければなりません。