ネプラス・ユー大阪レポート

「敬意をもって、小さく、農業。」シャープ山本氏、コピーライター日下氏が語るコミュニケーションが嫌われる理由

 

「小ささ」主語の大きさを意識する




 ここから、少し難しい中級編になります。以前、山本さんに取材した記事を読んで下さった方は覚えていらっしゃるかもしれませんが、主語の大小に関して山本さんは、ご自身の経験を踏まえて語ります。「SNSを担当する前は、テレビCMなどの大きい広告を作っていました。日本語の場合、主語が書かれないことが多いのですが、広告のコピーというのは、よく見ると『我が社』『このテレビ』『世界の画質』などと主語が大きく表現されています。その主語の大きさで、堂々とモノを語ることで、人はその主体に憧れるはずだと教えられてきましたが、今は決してそんな世の中ではありません」。

 そのため、SNSを担当することになり、主語を「私は」に書き換えると決めた山本さん。SNSでの発信で、主語を「小さく」することで自ずと発信する立ち位置が上からではなく、下に降りると考えたからだそうです。大きい主語のコミュニケーションに、すっかり嫌気がさしたため、その逆張りをするというのがモチベーションになり、日々Twitterでユーザーとコミュニケーションをしています。

 続けて、山本さんは「SNSは、みんなが自分のことを発信する場なので『郷に入っては郷に従え』で、企業であっても、その世界に入って『我が社は』と大きい主語で発信していると、誰もその人の話は聞きません。いち社員にならないと、受け入れてもらえません」といいます。

 シャープという企業の公式アカウントでありながら「我が社は」などと大きくではなく、「私は」と小さい主語で発信する。そうすると「私」には当然、責任が発生することになりますが、そういう覚悟があるからこそ、話を聞いてもらえるのかもしれません。

 次に、日下さんは「登場人物を小さくしたいと思っています。商店街のポスター展も、モデルはいち商店主です。以前、大丸松坂屋さんから、商店街ポスターに似た展開をしたいと依頼があり、社員100人のポスターを制作しました。そうすると『大丸松阪屋』というブランドが見えてきました。アンケートでも、数字の統計ではなく一人ひとりへのインタビューが大事で、小さな個人の物語の集積が組織だと思います。ブランディングも「我が社は」とはせずに、個人の話を蓄積していくことが大切です」と話しました。

 山本さんは、大きい企業をわざと小さくする。日下さんの場合は、その逆で小さな個人の集まりが大きな企業になる。ポスターには、いわゆるモデルさんを起用する場合もありますが、日下さんのポスターには、市井の人が起用されています。自分とかけ離れた人が言うことよりも、同じ目線で語りかけられるほうが自分ごと化して聞くことができます。結果的に、より多くの人の共感を得て、伝わりやすいのではないかと思います。

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