ネプラス・ユー大阪レポート

「敬意をもって、小さく、農業。」シャープ山本氏、コピーライター日下氏が語るコミュニケーションが嫌われる理由

 

「農業」狩猟民族ではない、農耕民族




 これは、ますます分からないですね。上級編です。山本さんは「マーケティングでよく使われる『刈り取る』という表現に違和感があります。人は必要なときに必要なものを購入するのだから、必要ではないときに購入を促しても意味がありません。たとえば、自動販売機でお金を入れると商品が出てくるというのは、分かり切った話です。しかし、広告の企画やプレゼンでは『この投稿は1200いいね!されます』とか『口コミツイートが100発生します』と実施する前から結果を提案されることがありますが、そんなこと分かるわけがないんです。デジタルでは時間が圧縮され、入力と出力がほぼ同時になっていますが、私たちの働く現場では、入力の前に出力が語られる。入力と出力が逆になってしまっています。私のツイートは、リターンとして商品が何台売れるということではありません。毎日コミュニケーションをして、5年後くらいに「そういえば冷蔵庫を買おうかな」と思ったときに、フォロワーの人がシャープを意識するくらいの影響を与えられればいいと思っています」と語ります。

 続けて、大企業の葛藤について「会社は期単位で考えるので、そんな長い時間軸での仕事は許してくれません。しかし、商売としてどちらがリアルなのか。私は種を蒔き、ある期間が経ってから収穫できる農業的な考えで踏ん張ってやっています。そういう意味で、私の仕事は狩猟民族ではなく、農耕民族のものです。さらに言えば、購入していない人より、購入した人とコミュニケーションしようとしています。気軽に買える消費財でも、10年に1回買い替える耐久消費財でも、次にまた購入してくれるような、ゆっくりとした間合いのコミュニケーションをしたいと思っています。SNSは、そちらのほうが向いているんです」と。

 こう聞くと、納得しますね。狩猟民族のように直ぐに結果を求めて刈り取るのではなく、農耕民族のように長いスパンでの収穫が重要だと気付かされます。一方、日下さんは「私は農業ではない」と言っていましたが、山本さんから「日下さんも農業でしょう」と説得されていました。

 そんな日下さんは「広告は短時間で効果を求められがちですが、地域活性化でバズる動画をつくっても一瞬で効果はなくなってしまいます。ぼくはいつも『残る』ことを心掛けています。そして残るためにはクオリティが必要です。JR東海の『そうだ 京都、行こう。』や大成建設の『地図に残る仕事。』のような広告が、本当にいい仕事、コミュニケーションではないかと思います。商店街のポスターも10年経ちましたがまだ貼られています。」と語ります。

「農業」というキーワードから、すぐに刈り取り、そこに何も残さないのではなく、長いスパンでやることが大事だということがわかりました。ずっと一つの場所にとどまり、伝えることで、結果的により多くの人に届くということなのかなと思います。

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