ネプラス・ユー大阪レポート

「敬意をもって、小さく、農業。」シャープ山本氏、コピーライター日下氏が語るコミュニケーションが嫌われる理由

 

「敬意をもって、小さく、農業。」




 最後に、コピーライターでもある日下さんからキーワードとして「敬意をもって、小さく、農業。」と言葉をつなげてもらいました。

 日下さんは、「皆さんに、お伝えしたいのは『敬意をもって、小さく、農業。』です。大事なのは、言葉づかいを考えてみること。そして主語を小さく、農業のように長期的に考えること。ここ最近のマーケティングのイベントでは、狩猟的な話が多いかと思い、あえて農業が大事としました」とまとめました。

 山本さんは、それに対して「地味なこと言っているなと思うし、こんな悠長なこと言っていられないというのも分かります。しかし、お金を使って認知を得て、行動変容を無理に促す行為には本質的に暴力性を孕んでいます。『自分たちは暴力を持っている』ということを肝に銘じないと、どうしても乱暴な言葉を使ってしまったり、ターゲット以外を蔑ろにしてしまったり、失敗することも多くなるのではないかと思います。『敬意をもって、小さく、農業する』。今後、企業がお客さまとコミュニケーションする未来に対して、これ以上嫌われないためには、この意識が必要だと思います。少なくとも、こういう振る舞いでコミュニケーションをこつこつと積み上げようとする人を決してバカにしないで欲しいのです。腰を据えて仕事しようとする人に対して温かい目を、そして敬意をもって欲しいのです。そうすれば、早くて3年後くらいには実を結ぶはずだから」とキーワードの重要性をあらためて語ります。
    
コミュニケーショントーク対談中の能川氏、山本氏、日下氏

 日下さんは前職の経験から「メーカーの商品開発は農業的ですが、コミュニケーションする人が暴力性を持ってしまっています。電通時代、広告は永遠の邪魔者と教えられていたので、今でも広告を制作するときは、これ邪魔者だなあと思いながら仕事をしています。たとえば、バナー広告が自分に出てくると見ないどころか、嫌ですらあるのに、仕事で広告を出す側になると、すべて見てくれるものだと思ってしまい、受け手の気持ちを忘れてしまいます。それはなぜだと思いますか」と山本さんに投げかけます。

 それに対して山本さんは「広告やマーケティング従事者は予算という権力を持ってしまうからではないでしょうか。本来、自分がされたら嫌なことは、人にしてはいけません。そういう当たり前のことを、常にそうだと思えるような人間でありたいと思います。私は、シャープという大きいところで小さい振る舞いをしているから、面白いと思ってもらえていますが、小さい振る舞いとは権力を振りかざさないことだと、常に自覚してやっています。」と答えました。

「広告は永遠の邪魔者」という言葉は、すごく印象に残りました。奇しくもこの言葉は、翌日のリクルート萩原氏がモデレーターを務めたクリエイティブセッションの中で、ワトソンクリックの山崎氏も言っていました。これは電通関西の教えだそうです。決して上から目線ではなく(敬意、小ささ)、そして長いスパンで(農業)コミュニケーションすることが、嫌われることなく、話を聞いてもらうために、大切なことだと今回のセッションを通して感じました。つまり、普段の社会生活であり、日々の生活そのものなのではないかと思います。

 また、「誰」が言うのかが大事だとも思いました。シャープさんのツイートも、決して毎回面白い、ためになる内容ばかりではありませんが、「今日は暑いな~」「さあ、仕事始めようか」とツイートすると、数百、千単位の反応があります。そして日下さんのポスターも、モデルさんがポスターの中から微笑みかけてくるのではなく、市井の人がポスターの中から語りかけてきます。だから、同じく市井の人である我われは「ん?」と耳を傾けるのだと思います。

 何を言うかより、むしろ「誰」が言うか。そして、その「誰」になるためには、たまにはためになる話や面白い話も交えながら、それをどれだけ長い間、伝え続けることができるか。そこにある「安心感」が大事なのではないかと思いました。まさにこれこそ農業ですね。

 いかがだったでしょうか。皆さんも「農業をやってみよう」と思っていただけましたか。
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