ネプラス・ユー大阪外伝 #05

マーケティングは、「かしこく」なりすぎてしまったのか?【ネプラス・ユー大阪2022レポート外伝 第5回】

 

ふるまいとして「敬意」を持つ


 まず「敬意」というテーマを掲げて、日下氏と山本氏が次にように話します。

 日下氏は「敬意があったら、かしこすぎなくなるはず。簡単すぎるのも、難しすぎるのも、面白くないのも、敬意がないとも言えます。タレントを起用したら、いい広告になるというのも工夫がありません」と言います。

 難しいものを難しいまま伝えて理解してもらえると考えたり、かえって簡単にシンプルすぎて伝わらなくなってしまったり。面白く伝えようとしなかったり。これらは消費者に対してわかりやすく、楽しく伝えようとしない、つまり「敬意が足りないこと」が原因で起こってしまうのです。
   
シャープマーケティングジャパン デジタルマーケティング部
山本 隆博氏

 山本氏は「Twitterのフォロワーに対する敬意がないケースがあります。ツイートしたら売れると思われていますが、情報を見せただけで行動が変わるわけがないんです。突き詰めたら、そういう考えは偉そうだとも言えます。こちらがターゲットとしたユーザー以外は無視するのも敬意がありません。また、プランを立てる人が『バズる』とか言いますが、情報を送る側がその発言をすること自体がよくありません」と言います。

 商品・サービスを消費者のニーズ・ウォンツに合わせて伝えたら、購入してもらえる。SNSで面白いことを言ったらシェアしてもらえる。そんな思い込みが、なぜかそこはかとなく存在します。

 同じネプラス・ユー大阪でワトソン・クリック クリエーティブディレクターの山崎隆明氏と、リクルート マーケティング室 CD萩原幸也氏のセッションでも語られた通り「消費者は自分たちの企業の商品・サービスが好きではない」、「広告は嫌われ者で、だれも嫌な人の言葉なんて聞きたくない」という前提がない状態で進めなければなりませんと語られていました。

 なぜ、我々は自分たちの商品・サービスが嫌われていない、もしくは興味をもたれているという謎の自信があり、かつ消費者に敬意を払わなくなってしまうのでしょうか。
 

主語を小さくする「小ささ」


 続いて、主語の「小ささ」の話です。
   
近鉄都ホテルズ 営業企画部執行役員の能川一太氏(左)、山本氏(真ん中)、日下氏(右)

 山本氏は「主語を小さく。『シャープが』ではなく『私が』と言っています。以前はマス広告を担当していましたが、大きい広告であると『我が社は』『このテレビは』といった具合に主語も大きくなってしまいます。 主語を小さくしたら上からの態度がなくなるため、主語を小さくしたときに後の文脈をどうするかが大事です。SNSは基本個人でのやりとりのため、そこに企業が入ると嫌われるだけです。また主語がでかくても、声がでかくても嫌がられます」と、シャープのTwitterでは主語を小さくしていると語ります。

 日下氏は「商店街のポスターでも主語を小さくしました。 個人の物語の集積が組織・商品・サービスです。 そのため企業としての広告も社員の積み上げでやるべきです」  と商店街ポスターも主語を小さくしたと言います。

 日下氏が手がけた商店街ポスターは、主語が商店街の店主で作られています。このポスターは、何年も経った今でもぼろぼろになりながら商店街に貼られていて、時代を超えて常にSNSを賑わせています。
 

 企業に属していると、いつしか自分自身が偉くなった気になります。広告会社やベンダーに偉そうな態度をとるだけでなく、消費者に対しても「我が社は、こういったターゲットに対し、みなさんの悩みを解決できる商品を開発しました。キャンペーン中なので、よかったら買ってください」という言い方になってしまうのです。

 主語を小さく。とてもいい信念です。

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