マーケティングアジェンダ2022 レポート #05

なぜスターバックスの店員は良質なブランド体験を提供できるのか?【マーケティングアジェンダ2022レポート第3回】

 

自ら考えさせる研修でスターバックスのミッションを自分ごとに


加藤 それでは最初に、スターバックスのミッション&バリューズをご紹介します。弊社のミッションは「人々の心を豊かで活力あるものにするために—ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」です。

バリューは4つありますが、ここでは要約します。「誰もが自分の居場所と感じられる文化をつくる」、「現状に満足せず勇気を持って行動する」、「威厳と尊敬をもって、誠実に向き合う」、「行動に責任を持ち、全力を尽くす」です。

最後に「私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。」という一文で、スターバックスのミッション&バリューズは締めくくられています。

ミッションにある「人々の心を豊かで活力あるものにするために」は、ある意味とてもざっくりした言葉とも言えます。そのため我々はパートナーに対して、「自分がどのような行動をすることでお客さまは活力を得るのか」を考えてもらうための時間をしっかり取るようにしています。実際に考えることで、自分ごと化してもらい、そこから先は一人ひとりのパートナー次第です。

その結果、店舗でも本社でも、社歴に関わらず、それぞれ自分の理解と言葉でミッション&バリューズを語り、行動できるようになります。
  
対談中の加藤氏(左)と富永氏(右)

富永 ミッションとバリューの言葉を定義するところまでは、どこの会社でもやると思いますが、スターバックスではミッションを実現するために、研修などを実施するのですか?

加藤 はい、店舗ではアルバイトを含め全員が入社をしてすぐに40時間以上のトレーニングを受けていただき、その中でしっかりと理解を深めていただきます。

富永 ただ単純に研修するだけでは効果は限定的だと思いますが、より理解を深める秘訣はありますか?

加藤 トレーニング自体が、研修というよりは対話を重ねていくプロセスになります。対話を通して、自分自身で考えて気づき、そこから自分なりの答えを見つけていく。それに加えて、様々な場面で、パートナーがミッション&バリューズを体現することを上手に促すようなことが、自然に行われています。

たとえば、トレーニングの中に自分自身もコーヒーを勉強する機会として、お客さまにコーヒーをオススメしてみるという項目があります。通常であれば「このコーヒーはこういう味で、お客さまにはこのような声かけをしてください」というマニュアルがあると思いますが、スターバックスの場合は、マニュアルのような細かいセリフは一切ありません。トレーニングでは「自分が一番好きだと感じたコーヒーをぜひ紹介してみてください」というシンプルなお題が出ます。
そうするとマニュアルが用意されていないので、自分なりに自分の言葉でお客さまに紹介しようと頑張ります。その根底には必ず「お客さまに元気になってほしい」というミッションに対する意識が存在します。このような活動もミッション&バリューズを日々の行動の中で体現してもらうことにつながっているのではないでしょうか。

富永 なるほど。通常の研修では高いところから、小難しいことを社員にダウンロードする感じが多く、知識として入ってきます。しかし、それが必ずしも頭で理解し、身体の行動につながりません。一方で、スターバックスの場合は、自分自身でアジェンダを設定し、お客さまにかける言葉を考え、何をするのかまで紡ぎ出すので、自分ごと化できるのですね。

※後半に続く

 このレポートは、2022年5月に沖縄で開催された「マーケティングアジェンダ2022」のキーノートです。沖縄の熱狂を東京でも感じてらうため、2022年12月8日から9日にかけて「マーケティングアジェンダ東京2022」(主催:ナノベーション)が都内(ベルサール新宿セントラルパーク)で開催することが決まりました。マーケティングアジェンダの東京開催は、今回で3年目。詳細は以下のリンクから、どうぞ。

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