マーケティングアジェンダ2022 レポート #06

「スターバックスらしさ」を生み出す人事評価制度と世界観のつくり方とは【マーケティングアジェンダ2022レポート第3回】

前回の記事:
なぜスターバックスの店員は良質なブランド体験を提供できるのか?【マーケティングアジェンダ2022レポート第3回】
  スターバックス コーヒー ジャパンは、全国47都道府県に展開し、店舗数は1700店を超えているが、どの店舗でも「スターバックスらしさ」を感じる上質な顧客体験を感じることができる。この体験や商品開発において、欠かせない存在なのは「パートナー」と呼ばれるスターバックスの従業員だ。そこで今回は、スターバックスコーヒージャパン 商品本部 本部長である加藤桜子氏をスピーカーに迎え、Preferred Networks執行役員 最高マーケティング責任者の富永朋信氏が聞き手を務めた「マーケティングアジェンダ2022」のキーノート「スターバックス商品開発責任者が追求し続けてきた『So What ?』とは」の後半のレポートになる。あまり明かされることのなかったブランドを形成するためのスターバックスの評価システムと「スターバックスらしさ」を生む世界観の裏側に迫る。
 

「意図」に着目する評価システム


加藤 実は、スターバックスでは評価システムも特徴的で、数値を用いたレイティングは行わず、パフォーマンス&ディベロップメントカンバセーションという対話をベースにしたアプローチをとっています。評価の基準は「結果を出せたか」、「ミッション&バリューズを体現することができたか」、「他の人が成功するのを助けたか」の3つです。この3つの基準に対して、それぞれがどのように実行できたかを、上司との対話を通して自分自身で考え、自分の言葉で語ってもらったうえで、上司から本人にフィードバックしていきます。
  
スターバックス コーヒージャパン 商品本部 本部長
加藤 桜子氏

富永 数字ではなく、対話で評価のフィードバックすることで、ミッション&バリューズに繋がるのはなぜですか?

加藤 それはコーヒーのオススメと同じですが、「自分自身をどう評価するか」にも画一的な答えがあるわけではないからです。「ミッション&バリューズを体現できましたか?」という問いに対して、本人の立場で「自分はこうしたらミッション&バリューズを体現できるのでは」と考えることにより、自分ごとにつながる。結果として、ミッション&バリューズがどんどんと浸透していくと思っています。

富永 その対話の中で「あなたはミッション&バリューズに合った行動をしたので、素晴らしいですね」みたいな話を人事評価のときにするということですか?

加藤 何をやったかというよりも、「意図」の方がより大事かもしれません。自分自身で考えて行動した意図を、きちんと自分で実行することにより何らかの形になる。それをしっかりと結果にいきつくまでやりきったか、という点をより評価している気がします。

富永 ミッションとバリューを体現しようとする行動ではなく、その行動の背景にある「意図」に着目し、評価をまとめることは、とても大変だと思います。しかし、会社を個人の意思や意図の集合と考えると、ミッションやバリューを整合的な方向に向けることは、社内文化を適切に醸成する上で非常に効果的だと思います。

さらに、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包括)の観点からも考えてみましょう。ダイバーシティ&インクルージョンは、さまざまなタイプの人が参加し、いろいろな価値観や視点、スキルを組織に取り込んでいこうという考え方です。ただ単に、いろいろな人がいるだけではなくて、それをひとつの方向に向けてパワーを結集することが肝心です。

よくダイバーシティ&インクルージョンというと、Dのダイバーシティの方が着目されがちです。でも実は、Iのインクルージョンもダイバーシティと同じぐらい大事です。そのインクルージョンの決定打になるのが、ここでアジェンダとしている「どういう意図を持って仕事をしてもらうか」になると思うんです。そういう意味でも「意図」に着目することは、とても理にかなっているのではないでしょうか。

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