マーケティングアジェンダ2022 レポート #07

A.T.カーニー梅澤氏とファミマ足立氏が語る「観光立国・日本」への道筋とは 【マーケティングアジェンダ2022レポート第4回】

 

日本のファンを増やして、訪日客単価を上げる


梅澤 世界経済フォーラムの「旅行・観光開発指数」ランキングで、昨年、日本が初めて米国、スペイン、フランスを抜いてトップになりました。国際観光収入では、世界9位になり、行きたい国や訪れたい都市のアンケートでは、常に東京がトップ3に入っています。

日本の観光地としての魅力は、交通インフラの利便性、自然や文化などの観光資源、そして治安の良さです。ポテンシャルは非常に高いので、どれだけいい体験を作り、お迎えできるかが勝負だと思います。しかし、日本のインバウンド観光は圧倒的に東アジアに依存し、訪日客単価が低いなどの課題があります。

日本の計画では2020年は訪日客4000万人で8兆円規模に伸ばし、訪日客単価も20万円まで引き上げ、さらに2030年までに25万円まで引き上げるという目標を掲げていましたが、実際は15万円のままです。国を挙げて体験のアップグレードに取り組まなければなりません。

今後の課題として、第一に富裕層市場の開拓。第二に長期滞在してくれる欧米豪などの顧客を増やすこと。そして第三にリピーター層の確保が挙げられます。コロナ前は、中国から初めて来日するお客さんが大量にいましたが、その中で、頻繁に訪れるリピーター層の満足度を上げ、年に1回は来てもらう動線をつくることができれば大きな需要の下支えになります。
 

「観光」+「文化」=「日本の中核産業にする」


梅澤 私の大目標の一つは、「観光+文化を日本の中核産業にする」ことです。そのために、国の観光政策をもっと高付加価値領域にシフトし、富裕層観光に取り組んでもらうこと。それから、体験コンテンツの質を上げるために、成功モデルをもっと作らないといけないと思っています。観光分野の体験コンテンツの成功モデルをプロデュースしたかったので、一般社団法人を設立しました。

観光関連の活動のひとつ目は、文化観光や自然観光のコンテンツ開発を全国でお手伝いすること。2つ目は、ナイトタイムエコノミーの推進。それから3つ目は、富裕層観光に向けた国の戦略づくりです。コロナが落ち着き、最初に訪れるお客さんは、ビジネス客や富裕層になるので、逆に今がチャンスです。そしてこれらの活動において大事にしているのは、「文化と観光とまちづくりを繋げる」という考え方です。
  
対談中の梅澤氏(左)と足立氏(右)

足立 もう少し詳しい説明をお願いします。

梅澤 はい、一般論で言うと、「観光に携わっている人」と「文化産業で文化を守っている人」、「都市開発に取り組んでいる人」は分断され、異なるものを目指して動いていることが多いです。観光に携わっている人は、より多くの観光客に来てもらうことを目指していますが、文化財の管理者は、文化保護の観点から観光客が来過ぎることも迷惑と考えていたりします。一方で、都市開発に携わる人の間では、古くなった建物を取り壊して再開発を行い、より高い賃料でテナントを誘致して街をアップグレードするという発想が強いです。

大企業でも地方でもこの分断は深刻です。我々が目指すのは、観光の発展が文化の継承やまちの活性化につながる好循環をつくることです。

たとえば、地方の食や祭りなどの魅力にひかれて観光客が来た場合、それらの体験をしっかりマネタイズして地域に落ちる観光収入を増やします。そして、その何割かを今後の文化保全や文化育成に再投資します。まちづくりという視点でいえば、古い街並みを壊して、ビルを建てても観光資源にはならないため、古い街並みにしっかりと投資することが重要です。たとえば、古民家を上質な宿に改修し、そこで得た収入を別の古民家の維持へと回していきます。このような好循環をどれだけ「文化」「観光」「まちづくり」の間で回すことができるかをテーマにしています。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録