マーケティングアジェンダ2022 レポート #07

A.T.カーニー梅澤氏とファミマ足立氏が語る「観光立国・日本」への道筋とは 【マーケティングアジェンダ2022レポート第4回】

 

観光収入を上げて、それをまちづくりに投資する


足立 すでに取り組んでいる事例などがあれば教えてください。

梅澤 代表例は、広島県・尾道です。素敵な街なので、単純に観光地としても楽しいと思います。行政はもちろん、近隣にツネイシホールディングスという志の高い地場の大企業があり、そことうまく結託しながら、良い循環を実現していると思います。

世界の7大サイクリングロードのひとつであるしまなみ海道周辺では、以前から多くの古民家を壊さずに、ゲストハウスやカフェ、ショップなどにリノベーションしています。また、ツネイシホールディングスが中心となり、さまざまな価格帯で特徴ある宿を整備しています。公共事業でも著名な建築家を起用し、建築や街並みを大事にしています。長らく映画の街でもあり、自然豊かなしまなみ海道と瀬戸内の島々も活かしながら観光収入を上げて、その収入をまちづくりに投資しています。尾道は好循環が回せているケースだと思いますね。



足立 富裕層の観光客には、どのくらいお金を使ってもらうイメージでしょうか。

梅澤 富裕層の定義には諸説あります。観光庁としては一旦「往復のフライトを除き、1度の旅行でひとり当たり100万円以上を使ってくれる人」という定義にしています。

富裕層観光の開発には3つの意義があります。1点目は、観光収入のアップという経済的な意義。2点目は、より質の高い観光客がたくさん訪日し、日本のファンが増えれば、結果的に日本のソフトパワーや外交力、安全保障にも繋がるということ。3点目は、地域の自然資源や文化資源、あるいは街並みへの投資が可能となること。これらを魅力と感じて最もお金を払ってくれるのは富裕層なので、投資の回収には彼らの存在が重要なのです。

日本にはすでに富裕層の観光客が好んでいるエリアがいくつかあります。東京や京都ももちろんですが、瀬戸内にある直島が日本で一番ブランド力のある観光地のひとつです。北海道のニセコは世界有数のスキーリゾートですし、世界遺産に登録された紀伊半島に位置する熊野古道も人気です。

 

地方の富裕層観光で重要な4つのポイントとは


梅澤 現在、観光庁による富裕層観光の取り組みも地方にフォーカスを当てています。東京と京都には、すでに多くの富裕層が来ていて、高級ホテルも多くあるので、それなりにお金は落ちています。しかし、地方には全くお金が落ちていません。



そこで大事になるのは次の4つのポイントで、それらをすべて実行することだと思います。ひとつ目は「よそ者目線」です。外からの目線で地域を見ると、住民が当たり前と思って見過ごしているものに魅力を感じることも多い。そんな資源を発掘して磨き上げていくことが大事です。

2つ目は、上質な宿泊施設の整備です。グローバルブランドの大型ホテルをどんどん作るという話ではなく、地域の自然環境や街並みにマッチした、上質で高単価の宿が地方には欲しいです。

3つ目は、観光客がその地域に入った瞬間から出るまでのカスタマージャーニーをしっかりとデザインすることです。

4つ目は、来訪してくれたお客さんを「観光客」というポジションで終わらせてしまうのは少しもったいないということです。「交流人口から関係人口へ」という言葉がありますが、その地域にコミットする人が少しでも出てきたら、観光としては成功だと思います。「観光」「文化」「まちづくり」を繋ぐというのは、まさにこういうことです。富裕層が別荘を建てたり文化財の保護を支援してくれたり、と言ったコミットメントを引き出せると大きいですよね。地域の未来を一緒に作って行ってくれる関係人口の増加も大事な目標の一つだと思います。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録